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 それはその日、名前が決まったためご機嫌であった。





(私の名前、シャーミィか。ミィが愛称。良い名前やね。それに日本人にも出会えたし。マサルって言いよったね。また明日来るって言いよった。詳しく話は出来なかったけれど、明日詳しく色々聞けるはず! それにしても同じ日本人っぽいのに何で周りの言葉聞けるんやろ? そのあたりも聞かんと)




 それ――シャーミィはご機嫌な様子でそんなことを考えていた。



 シャーミィは人と会話を交わす事に飢えていた。人と接する事に飢えていた。そんな自分がようやく名前をもらい、話せる人を見つけた。それだけでも嬉しくて仕方がなかった。



 名前を付けてもらえたことが嬉しくて、男に感じた疑問を聞くことはしていなかったという事に気づいたのは、名前をつけてもらってしばらくしてからである。

 ――何故、男は自分と同じように日本から来たというのに言葉が通じるのか。シャーミィには疑問であった。




(はやく明日にならんかな。マサルと沢山話さんと)




 あの異世界からの転移者である男――マサルは一旦この街に留まる手続きをするという事で騎士団の詰め所から去っていた。

 明日になったらまたこの詰め所にやってくると言っていたので、その時間がはやく訪れることをシャーミイは楽しみにしている。




 しかしはやく翌日になることを望んでいるシャーミィだが、今日はまだ半日ある。





 名前が決まってからというもの、シャーミィは常にニコニコしていた。その愛らしい顔を破顔させて、心から嬉しそうに笑っている。





 名前が決まる前から表情豊かで可愛らしいと騎士団の中で可愛がられていたシャーミィだが、名前を呼ぶとより一層顔を破顔させるという事が知られ、騎士団の面々は「シャーミィ」と何度もシャーミィの名を呼んだ。



 シャーミィも、名前を呼ばれる事が嬉しかった。名前を呼ばれる事の必要のない生活を送っていたシャーミィは、久しぶりに名前を呼ばれる嬉しさを知ったのだ。


 誰かに名前を呼ばれることは、土の中ではなかった。

 シャーミィのように人のような意識を土の中の魔物にはいなかったのだ。



(昔の名前はとっくに忘れとる。名前を呼ばれる必要もなか生活しとった。でも、名前を呼ばれると、こんなに嬉しいんやね)



 昔の名前はとっくの昔に忘れている。

 昔の名前を憶えていたらそれを呼んでもらうことが出来たが、その名前はもう記憶の彼方である。



 新しい名前は、シャーミィにとって特別なものである。

 嬉しい、嬉しいとそれは心から感じていた。

 だからこそ、笑みを零している。




「あの男の人に通訳してもらわなければミィが言っている言葉が分からないのが辛いわ」

「でも喜んでいるのは分かるからいいな」



 相変わらず言葉は通じない。だけれども、騎士団の面々はシャーミィが言葉を交わせる人物が現れた事を心から喜んでいた。そして言葉が分からなくても嬉しそうに笑うシャーミィを見て、笑みを零すのだった。




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