「+****♪」 



 さて、このマハラ砂漠の近隣の街の騎士団に所属しているアッサムは、困惑している。

 というのも、突然砂漠から現れた少女が、騎士団の昼食をがぶりと口にしているからだ。



 ただ焼いただけのお肉。味付けなんてほとんどしていない。遠征に来ていて、街で食べるほど美味しいものを食べることは出来ない。

 そのほとんど味付けのされていないお肉を美味しそうにばくばくと口にしている少女に、アッサムはどうしたらいいか分からなかった。


 アッサムだけではない。

 周りの騎士たちも、少女への困惑が強い。


 何故なら少女には言葉さえも通じない。聞いたこともない言語をしゃべり、大人たちの中に入り込んで、無邪気に肉を頬ぶる。こんな少女、見たことも聞いたこともない。


 

 その不思議な少女は、この場に居るのには相応しくなかった。

 腰まで伸びる艶のある美しい黒髪と、見た事もない真っ黒な瞳を持つ少女。




 このマハラ砂漠を歩いてきたのだろうに一切汚れていない薄緑色の、膝丈まであるワンピース。






 魔物ではないかという不安さえもよぎる。人型をした魔物も世の中には存在している。それに人の姿を持っていなかったとしても、強大な力を手にして人の形を手にした存在も世の中にはいる事をアッサムは知っていた。



 だからこその、騎士たちの警戒。



 騎士たちは、目の前の少女が何かよからぬことを企んで此処にいるのではないか。そんな警戒心を持って少女を見つめていた。



 だけど、少女は見つめられている事に気づいてるのか気づいていないのか……、無我夢中でお肉を食べている。


 魔物ではないか、という恐怖はもちろんある。

 

 しかし、目の前で一切の警戒心を見せずに、無邪気な笑みで焼いただけのお肉をおいしそうに食べる少女がそういう存在と結びつかなかった。




 その魔物であるかもしれないというのは、実際魔物であるわけだが。




 ただ、アッサムたちの知る魔物は人に害をなそうと考えるものである。




 少女の中には事実、人を害する気持ちはない。少女の中にあるのは、ご飯を食べたい、人と話したいというそれだけの思いだけなのだから。


 本来の《デスタイラント》ならば、人も魔物も建物も気にせずにすべてを食らいつくすが、それは異世界の記憶があるが故に人の食事を求めた。

 ――だからこそ、人に対する敵意がない。



 

「君は、どこからきたんだい? 君は誰だい?」

「+++**************」




 少女の言っている言葉は、アッサムには通じない。何せ、少女の話している言葉は異世界のとある場所の言葉であり、それがここで通じるはずもなかった。



「どうしますか、団長」

「そうだな……。こんな幼気な少女を連れたまま、《デスタイラント》の動向を探りに行くわけにもいかない。こんな少女の命を犠牲にするわけにもいかないからな」

「ですよね……。しかしこの少女は本当に運が良いです。《デスタイラント》が現れたかもしれないこの砂漠で、生きて俺達に出会えるなんて。俺達に出会えなければ死んでいたことでしょう」



 騎士達の会話は当然、少女には理解できていない。



 《デスタイラント》が現れたという情報は、近隣諸国を駆け巡っている。本当の事なのか、本当ならば《デスタイラント》は何処に向かおうとしているのか。

 それを知ることは重要な任務であった。


 ちらりとアッサムは少女に視線を向ける。少女と騎士たちの間では会話は成立していないが、少女がご飯を食べたがっていることは分かる。お肉を与えれば満面の笑みを浮かべる少女は愛らしく、その少女に騎士達は次々にご飯を渡していた。



 よっぽどお腹がすいていたのだろう。

 よっぽどこの砂漠の中を空腹で歩いていたのだろう。



 そう思うと、騎士たちは庇護欲を誘われる。



「すぐに彼女を街へ連れて行き、お腹いっぱい食べさせよう」

「そうですね!!」




 そんなわけで言葉も通じないが、こんな小さな少女をこのまま放り出すわけにもいかないとアッサム達騎士団は少女を街まで連れていくことにする。




 “出現したと思われる《デスタイラント》の動向を探る”という決死の任務を中断して―――。まさか、その本人が目の前にいるとは思わないままに。

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