第3話 応募しますっ!
室内一面、ガールズファンタジーシリーズのイラストで埋め尽くされ、客で賑わうカフェ。あたりのテーブルで食事をする者、オシキャラパネルの前で撮影をする者など熱気に湧いている。
基本、男性客が多い中で大きなミミちゃんパネルの横でぴょんぴょん飛び跳ねている少女が一人。そう今日から我ら萌研の同胞である大江都姫(おおえみやび)である。
咄嗟にオレと及川の座るテーブルへ駆け寄って来る。
「すごい、こんなコラボカフェがあったんですね」
キラキラした目の彼女に対し、オレも口を開く。
「うん!萌研の歓迎会はここでやってるんだよ」
「歓迎会かぁ〜、私もいよいよ萌研なんですね」
「それにしても大江氏はなんでこの萌研に入ろうと思ったの?」
及川がオレも気になっていた質問を彼女に投げかける。
「えーと、色々あるんですが……、あの、やっぱりこうやって誰かと一緒にかわいい子について話すのが楽しいっていうか」
「俺も!」
「えっ」
「あっいや、俺もそうだったっていうか」
ついつい彼女の言葉に対し共感してしまい、咄嗟に反応してしまう。いかんいかん悪い癖である。リカバリーしようと考えていると、及川から一言。
「他の人から嫁を紹介してもらうために入ったんだもんね」
おい、及川余計な一言だぞ。
「お嫁さんですか?」
「あっ、いやいや、その語弊があるというかなんというか」
濁したいところに突っ込んでくる彼女に対し、
「えーと、やっぱり他の人からの情報も新鮮っていうか。新しいキャラクターと出
会えるかなぁって」
「うんうん、今田氏は毎クールアニメの嫁を探しておりますからな」
「おいっ」
オブラートな言い方があるだろっ!及川!!
「お嫁さん……、ほしいんですか?」
「えーと、お嫁さんにしたいなって人はいたんだけど」
そう、1週間前まではいたんですがね。
「諸事情により撃沈。嫁募集、停止中」
再三、余計なことを言う及川を睨むものの、当の及川は気に留めていない様子。
「募集停止しちゃったんですか?」
「あっ、いや停止というかなんというか。募集したとこで集まらないというか」
あぁ、何言っていんだろう。こんなオレの黒歴史のような話ばっかりして、また彼女に悪い印象を持たれてるんじゃないだろうか。
まっ、確かに隠しようのない事実ではあるのだが……。
何か別の話題に変えようと考えていると、彼女から咄嗟の一言。
「私、応募しますっ!」
「何に?」
しばらく間ができ、コップを両手にぎゅっと握る彼女。
そして再び部室を訪ねた来た時のように意を決した表情で口を開く。
「今田さんのお嫁さん!」
「はっ」
「マジッですか、大江氏」
「はい、マジです」
「いやいや、嫁も何もまだ付き合ってもないし」
そう、嫁も何もまだ出会ったばかりで。っていうかなんでオレなの。というかやはり聞き間違いですか。
オレが色々と困惑する中で、彼女はスマホをオレに差し出し、さらに衝撃の一言。
「だって私たち結婚してるじゃないですか」
「なっ」
彼女の画面をよく見てみると1年間恋焦がれたハルちゃんのアバターが写っている。待て待て!
「もしかして、は、ハルちゃんっ!」
「はいっ!」
「ええぇぇ〜」
「確かに前にサークルのこと話したけど、それで来てくれたってこと」
「そうです!」
「いや、今田氏も筒抜けに話すぎでは……」
いやいや、筒抜けもなにもこんなカタチで来てくれるなんて夢にも思わないでしょ。オレのために来てくれたっていうこと?
「ってことでよろしくです」
「あっ、はっい」
えっ、このよろしくってどういう意味ですかね。彼女を通り越して、本当のお嫁さんとしてでいいってことですかね。頭がパンク寸前になっているところ、及川から一言。
「今田氏に春が来た……」
笑顔で見つめてくれる彼女。
そう、この日。萌研のオレに本当の嫁が舞い降りてきたのであった。
萌研のオレがネトゲ嫁を本当の嫁にするまでの話 ヒチャリ @hichari
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