第2話 合格しましたっ!
さて、再び静寂に包まれる萌研部室。誰もいないというわけではない。むしろ、いつものメンバーのオレと及川に加えて、一人ゲストが来ている。
突如、入部希望でやってきた小動物系女子、その名も大江都姫(おおえみやび)だ。
お互い名前だけ紹介した後、しばらく沈黙が流れていたのである。普段、オレと及川は3次元女子との会話に慣れていないせいか、上手く会話できないまま時間が過ぎていた。
彼女はオレと及川の向かいに座り、周囲にあるフィギュアをマジマジと見ている次第。
「今田氏どうする?」
「いや、どうするって何が」
「創立以来、初の女子部員。歴史的快挙だよ」
「歴史1年だけどな」
だが、確かにどうしたものか。初の女子部員でオレも戸惑っているのだ。何か話さねばと考えていると、彼女はモニターの方に視線を向け、
「ユナちゃんかわいい……」
「おぉ〜、大江氏わかってるっ!」
「ガールズファンタジーシリーズ分かるの?」
「はいっ!大好きです」
ガールズファンタジーシリーズとは累計で100万本以上を売り上げ、コンシューマーゲームの世界に恋愛シミュレーションゲームを定着させた、言わずとも知れた名作ゲームシリーズ。
男性向け恋愛ゲームであるため、女子に話しても話が通じないことがほとんどなのだが、彼女は違った。
そして、隣に座る及川は咄嗟に前のめりになり、口を開く。
「それでは大江氏、一つ質問を」
「はい」
「ガールズファンタジーシリーズでイチオシのタイトルは?」
「うーん、テイルズオブハニーですかね」
「えっ、マジッ!!もしかして、ミミちゃんファンなの?」
「あっ、はい!」
オレも会話の途中で口を挟み、彼女のあげたタイトルに勢いよく反応する。
まさかの派生タイトル!ゲーム内で登場するヒロインのミミちゃんはシリーズの歴史の中ではマイナーな部類とされているが、コアファンが多い。このシリーズのみ唯一、制服・私服・水着の3種類設定がされており、まさにミミちゃんのミミちゃんによるミミちゃんのための作品なのである。
要するにミミちゃんファンにとって至高な作品なのだ。ともかくこの答えにオレたちは確信する。
彼女は本当に萌えを愛しているのだと!
そんなことを考えるうちに再び黙り出してしまうオレに彼女は恐る恐る顔を上げ、
「えーと、まずかったでしょうか」
「いや大江氏、合格っ!」
「やったっ!これで入部できるんですね!!」
「あっ、別に入部試験はないんだけどね」
なぜか合格通知を出し、グッドポーズをとる及川とそれに喜ぶ彼女。続けて及川は立ち上がり、棚からグッズを取り出していく。
「では、無事、大江氏の入部を祝してどうぞ」
机の上にミミちゃんグッズが並べられていく。
「すごい、初回購入者申込限定フィギュア。手にとっても大丈夫ですか」
「どうぞ、どうぞ同志よ。あっ、そうだ。ちょっと倉庫にもあるから持ってくるね」
及川が部屋から出ていき、オレと彼女二人っきりになる。
フィギュアをマジマジと見つめて、大事に手に取る彼女。二次元キャラを愛でる彼女の姿がとても尊い。
「かわいい」
彼女の愛らしい姿についありきたりな心の声を漏らしてしまう。
一瞬、彼女と目が合うものの、すぐさま言葉を付け加える。
「よね、ミミちゃん!!オレイチオシなんだ」
「あっ、はい!」
少し焦り気味で言葉をつなげ、目を下にやってしまう。入部早々、こんな発言して気持ち悪がれていないであろうか。
やたら彼女のことで頭がいっぱいになってしまい、緊張してしまう。そっと彼女の方へ見やると、何やら彼女も恥ずかしげにチラチラこちらを見ているではないか。
まさか、さっきのかわいい発言は誤魔化し切れていなかったか。いや本当に可愛いから誤魔化す必要もないのだけれども。
なんとか繋ぐ会話はないかと模索していると、
「よかったです」
「えっ、何が?」
「いまださんとオシキャラが一緒で……」
「いやこちらこそですよ。こんなお淑やかな子がファンにいるなんて、オレも誇らしいというか」
「そっ、そんなことないですよ」
なぜかお互いに慌てふためいてしまう。またオレ、気持ち悪いこと行ってしまっていないであろうか。そんなこんな彼女のことを気にしていると、
「あの、いまださん、実は……」
何かを口にしようとする彼女。その瞬間、部屋のドアが開き、いくつかフィギュアを持って及川が戻って来る。
「あったぞぉ〜」
「おぉぉっ、これは山上学園編の夏制服ミミちゃんですね」
「うむうむ、さすが」
及川の広げたフィギュアに目を光らせる彼女。
そして、及川がオレの側に近寄り、一つの提案をしてくる。
「大江氏ならあそこに一緒に行けるのでは?」
「あそこって?」
「そりゃ萌研に入部したとなったら決まってるでしょ」
なるほど、彼女なら喜ぶこと間違いなし。
オレたちの話に興味を持った彼女も視線をこちら側に向ける。
「何かあるんですか?」
「大江氏この後、時間あるかい?」
「はい、大丈夫です」
「じゃあ行きますか!」
リュックに荷物を詰め始める及川。
緊張気味な彼女がオレに視線を向け、尋ねる。
「行くってどちらにですか?」
「それはね……」
行き先を告げた後の彼女の顔はミミちゃん超えの輝く満面の笑みであった。
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