第31話いつかは

●いつかは


 

イツキが死んだ。


 スウハはそれをみとった。スウハとスズだけがイツキをみとったのは、イツキの願いであった。だが、周囲は悲しみのあまりに静まり返っていた。

 

自分の看取りをスウハに頼んだのは、次の統治者がスウハであるからだ。スウハはイツキの手を握り、そのなかでイツキは静かに息絶えた。


 ひどい悲しみのなかで、スズはイツキを連れて行こうとした。


 やめて、とスウハはいう。


 これ以上、イツキを苦しめてほしくはなかった。イツキは、自分が死んだらスズが死ぬことを気にしていた。決心はしていたが、死なないほうがイツキが喜ぶに決まっていた。だから、スウハは決めていた。イツキが死んでも、スズが死なないように説得しようと。それがイツキが一番喜ぶことのような気がしていた。


 だが、スズは死を選んだ。


 死を選んだスズの元に、シチナシが現れた。シチナシは、恐る恐るスズに触れた。冷たいスズの体に、シチナシは衝撃を受けたようだった。


「本当に死んでしまわれた」


 シチナシは、途方に暮れたようにスウハを見た。


 自分が頼りにするべき半身を。


「人を呼びます。埋葬をしなければならないし」


 部屋を出ていこうとしたスウハをシチナシは止めた。


「これを幸せだと思いますか?」


 シチナシは、スウハに尋ねた。


 スウハは、小さくうなずく。


「この失い続けるだけの世界では、一つの幸せだとは思います。賛同ができませんけど」


 スウハは、シチナシの前に立って。


 そしていまだに座り込むシチナシを抱きしめる。


「でも……どうかあなたはボクが死んでも死なないでください。最後まで死なないでください」


 シチナシは、どう返事をすればいいのか分からなかった。


 スウハは、シチナシ抱きしめていた腕にさらに力を籠める。


「ボクも死にませんから!」


 スウハは叫んだ。


「あなたが死んでも、死にませんから……だから、どうか」


 頼み込むスウハに、シチナシは答えることができなかった。


 スウハの死んだときのことを想像したからである。もしも、スウハがイツキと同じように死んでしまったら。なす術もなく死んでしまったとしたら。世界に希望というものはなくなってしまうであろう。そんな世界で生きていけるほどシチナシは強くない。


 けれども、自分が死んでもスウハが生きていけるのならば――……。


 それならば――……。


「死んでくれるなよ」


 シチナシは、スウハに腕を回した。


「絶対に死んでくれるな。私が死んでも、君は死んでくれるな」


 それが、世界に希望を残す唯一の方法に思えた。

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