第五章

第29話帰還の季節

●帰還の季節


 雪が降るのが、ずいぶんと早い冬であった。寒さで息を白くしながら、ユキは冬の訪れを感じる。去年はたっぷりと降った雪は、今年は少なめであった。


そういえば、ユキが村にやってきてから一年が経ったのだとササナは思った。色々なことがあったなとササナは、一年を振り返る。最初にであったときに、たしかユキはササナの命を救ってくれた。ユキはクマをたおして、ササナはユキを村まで運んだのだった。たった一年のことなのに、ササナはもう何年も前のことのように感じた。


この一年でササナは色々なものを失った。


けれども、同時に得たものもあった。


ユキとユキに対する愛情であった。


ササナはユキと一緒にいると楽しかった。彼を何よりも美しいと思った。間違いなく、ササナはユキに恋していた。それが今年一年で新たに手に入れたものであった。


そんなユキは相変わらず暇さえあれば、剣の修行をしている。


強くなって、ツナと再会して勝ち――兄を殺してしまった弱い自分を超える。それがユキの復讐になったのだ。

 

ササナは、超えられるのだろうかと不安にある。

 それぐらいにツナは強かった。


 このままユキの一生が、復讐だけにならないことを祈る。


「……お前がいたんだよな」


 ササナは、フブキを見つめた。フブキは初めての雪にはしゃいでおり、ごく普通の子犬のように庭を駆け回っていた。そんなフブキのあとを村の小さな子供たちが追いかける。それに気が付くとフブキは急に取り繕って、毛づくろいを始めた。


それがなんだかおかしくって、ササナは笑った。


このユキの兄の忘れ形見が、ユキを癒してくれるのを願うしかない。ツナが、オチバを救いにしていたことのように。


「黒組が帰ってきたぞ」


 その声が聞こえた。

 

去年と同じように門が開かれ、黒組が迎え入れられる。


ぞくぞくと入ってくる、黒組。


手当てが必要なものはイツキやスウハたちのところへ行き、彼らは束の間の休息を行った。噛まれたいたものもおり、それらの人々も去年と同じように地下牢へと連れていかれた。死人へ転化すれは、それはイツキが例年のように殺すのであろう。悲しいことだが、それも例年通りのことであった。

 

スズやシチナシは、無事に帰ってきた。


スズに一番に飛びついたのは、意外なことにユキだった。


イツキはその光景に驚いて、目を白黒させていた。ユキとスズはほとんど接点はなくて、ユキの性格上そういう相手には警戒を表していたのにスズに対しては警戒をしていなかった。だが、すぐにイツキはそれを良い兆候だと考えた。ユキが、獣から人へと近づきつつある証拠であった。


ユキは、スズに稽古をつけてほしいと頼んだ。


どうやらスズが強いことをきいて、強くなるために戦いたいと思ったらしい。スズは休息をとることを優先し、ユキの相手はしなかった。シチナシも同じだった。


ユキはむくれていたが、冬の間は村にいるのだから贅沢は言ってはいけない。それに、しばらく休めばスズもユキの相手をしてくれた。


ユキは強くなっていたが、人間相手ではやはり苦手意識があるようだった。どんなに新たな作戦を考えても、どんなに剣術を磨いても、スズにも、シチナシにも勝てなくて、ユキは暇さえあれば二人に再戦を頼むようになっていた。


最初は子供に付き合うように勝負にしてくれたスズだったが、段々と飽きてきて二人はユキの声がすると逃げるようになってしまった。おかげで、ユキはスズを追って走り回っていることがしょっちゅうになった。それは犬がお気に入りに玩具を追い回しているような光景にも見えた。ササナには、それが微笑ましく思えた。


そして、途中でスズはユキの相手をシチナシに任せるという方法を思いついた。シチナシも強く、ユキは敵わない。それでいてスズは「シチナシを倒せたら自分が相手になる」というものだから、ユキに追われるのは今度はシチナシになった。シチナシはスズほど器用ではないので、ユキの再戦を挑まれるごとに受けることになった。 

 

そんなふうに、冬が過ぎていた。

 

だが、事件が一つ起きた。

 

イツキが病に倒れたのである。

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