第28話支配者とは

●支配者とは


 支配者なんてなるべきではないと思う。


 それが、オチバの考えだった。


父は、村を纏めていた立場だったからこそ殺された。もしも、村の人々をまとめていなかった父は殺されていなかっただろう。父と娘、それにツナと共に平和な三人家族でいたに違いがない。

 

オチバの父は、カエデと言った。


 昔から頭がよいが、とにかく口が悪い人だった。オチバに母親はいない。大昔に死んで、その友人だったカエデがオチバを引き取ったらしい。父親は誰か分からないということだった。だが、オチバの容姿は母似なのであるとカエデから聞いたことがある。


オチバの母が死んだのは、オチバが赤子の頃の話である。


オチバを引き取ったカエデは、彼女を実の子のように育てた。そのため最初にその話を聞いたときは、オチバは真実を信じられなかった。けれども、カエデ以外の大人もオチバとカエデは実の親子ではないと言っていた。それで、ようやくオチバは真実を信じた。


真実を知っても、オチバはカエデのことを信用していた。


親として愛してもいた。


ずっとそばにいたいと思っていた。それは、強いからという理由でツナという男を連れてきても同じだった。オチバはカエデを信用していたから、カエデが信用しているツナも信用した。単純な理由であった。


ツナは、カエデを守っていた。


だが、オチバは知っていた。


カエデは、ツナにオチバを守ってほしかったことを。


カエデは、頭がよかった。


薄々自分が村人に排斥さえると考えていたに違いない。そのときに、オチバだけは助けられるようにとツナを連れてきたのだ。


自分は助からないつもりだったのだろう。


いいや、カエデは責任を取ると言っていた。


父の言う責任とは何なのだろうか、とオチバは考える。


村人をまとめることができなかった責任なのだろうか。


そんなの、カエデの責任ではない。カエデを排斥したのは村人で、カエデは悪くなかったのだ。現にカエデの統治は、それなりにうまくいっていた。すべての人間を満足させることはできなかったが、そんなことは神様だって不可能なのだ。ただの人間のカエデに、そんな理想なような統治ができたはずがない。


なのに、カエデは殺された。


ツナは、オチバを守って村の外に連れ出した。


オチバは何とか助かることができて、ツナとはぐれても再開できた。けれども、喜びはなかった。もう、父は、カエデは、いないのだ。

 

ツナと共に、オチバは保護された村を離れた。


 ツナと戦ったユキと言う少年は、ツナに負けた自分を超えることで復讐心に決着をつけようとしていた。そんなことは可能なのだろうか、とオチバは考える。

 

自分にはきっと不可能だ。


 オチバは、今でも村人を恨んでいる。


 父を排斥して、殺してしまった村人を恨んでしまっている。


「あ……」


 森を歩いていると、オチバは声を上げた。


 自分たちの村から、父を殺した村から、煙が上がっていた。狼煙ではない。きっと何かが村にあったのだ。死人に襲われたのか、内部で何かがあったのかは分からない。それでも危機的なことが、なにかあったのだ。


「滅んでいたらいいのに」


 思わず、オチバはそう言った。


 自分たちを追放し、父を殺した村が、滅んでしまえばいいのに、と。


 心の底から憎いからそう思った。


「滅んだ……さ」


 ツナはそう言った。


 ああ、ツナもそう思っていたのか。


 それだけで、オチバは少しだけ救われたような心地になった。


 少なくともオチバは一人ではなかった。


 二人だった。

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