第25話復讐

●復讐


 ユキの兄を殺した人物は、カエデという人間の子供を探しているらしかった。スウハは、オチバにカエデという存在を知っているかと尋ねた。


「私の父です」


 オチバは答えた。


 彼女はなんとなく何があったのかを察しているようだった。ツナと彼女は知り合いだったようで、彼女はツナの気性や行動をよくよく理解していた。


「ツナがごめんなさい」


 オチバは、頭を下げる。


 スウハとイツキの元にオチバを連れて行き、ツナがどのような人物であるかを尋ねることにした。ツナへの対応を決定するには、イツキの判断力が必要だった。


ツナは、イツキの前ですべてを話した。


ツナは、オチバの父であるカエデの親友であるという。処刑されそうになっていたオチバを村の外に連れ出し、そのままオチバとは離れ離れになってしまっていたらしかった。

 

そのツナが、どうしてユキと戦うことになったのか。


 オチバは、ツナの気性に原因があるのではないかと語った。


「ツナの頭には、私を探すことしかないのだと思います。私を見つけるためならば、なんでもするんでしょう」


 ユキの兄を殺したのは、その一環であろう。


 普通であれば、狼が味方であるとは思わない。しかも、ユキの兄を殺した時にはツナとユキは交戦状態にあった。互いに互いの目的を言わなかったゆえに起きた悲劇であった。


 スウハは困る案件だと思った。


 ユキの兄は、村の一員ではない。しかも、狼である。狼を殺したからと言って、ツナと敵対するということはできない。だが、ユキは黙ってはいないだろう。


 イツキは、少しばかり考える。


「オチバ、ツナのもとに帰りたいですか?」


 イツキは、オチバに尋ねた。


 オチバは「帰りたいです」と答えた。


 スウハは、思わずため息をつく。それはひどく厄介なことだったからである。帰りたくないと言って、ツナと敵対してくれていたほうがずっと簡単に事が運んだ。イツキは、そんなスウハの様子を咎めた。


「ユキは、私は説得します。スウハ、オチバと共に一緒にいてあげてください」


 イツキにそう命じられたスウハは、オチバと共にいることになった。


オチバは、大人しい少女であった。


物静かな少女は、他の人物たちに人気があった。静かに他人の話を聞いて、的確な助言をするからであろうとスウハは思った。幼い少女を囲むような様子とはとても思えない光景であった。


「父もみんなの意見をまとめて村を運営していたの」


 オチバは、そう言った。


「父はとても賢くて、口は悪くても優しい人だったわ。みんなをまとめて、一つにして。敵に立ち向かってたりしていたわ」


 それでも他人から反感をかってしまい、村人に追い詰められてしまった。


 地位を追われ、殺され、娘の命さえも奪われそうになった。


 スウハは、生唾を飲み込んだ。


 これは、他人事ではないのだ。スウハもイツキも周囲の人間から反感を買えば、殺されてしまうのだ。


それでもイツキ達が他者を導くのは、その人間はまとまることでしか強さを発揮できないからだ。イツキ達は人間の強さを発揮させるために、人を一つにする。それがスウハたちの指名であった。


「スウハさんも将来は人の上に立とうと思っているの?」


 オチバは、スウハに尋ねた。


 スウハは頷く。


 オチバは、それに対して悲しそうに目を伏せる。


「私はダメだわ。もう私は、人を信用できない」


「僕は、個人を信じるのではありません」


 スウハは、そう宣言する。


 他人を全く信じないというわけではない。だが、いつ裏切られるかは分からなないとは思う。それでも人を思ってまとめるのは――人の力を信じているからだ。


「僕は、人が団結したときの力を信じているんです。だから、僕は人をまとめるために働きます。それがシチナシのためになるから」


 オチバは、驚いているようだった。


 だが、まぶしいものをみるようにスウハを見つめる。


「あなたの夢が……あなたの見ているものが……一つも濁らないことを祈っているわ」


 オチバは、祈る。


 スウハは、その祈りに答えたいと思った。


 答えられたら、とも思った。

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