第13話奪い合い

●奪い合い


 夜が明けると、馬をつないでいた場所まで戻った。馬たちは無事であり、どうやら昨晩の足音の主もユキたちのことを避けて通ったらしい。


ユキたちは馬に乗ると、先に進む。目当ての薬草は、山を一つ越えたところの野原にしか咲いていないらしい。貴重なものであるとイツキは言っていた。


「ここまで村を離れるのも久々だな。いつもはもうちょっと近場で狩りとかをするから」


 ミサの言葉に、ユキは意外に思った。


「野宿はあんまりしないんだ」


「そうそう。基本は日帰り。野宿は危ないから。それにしても、お前たちを連れてきて正解だったよ。ユキは野宿になれてるし、ササナは馬の扱いが上手いし」


 ミサは、ミサなりに考えて二人に声をかけたらしかった。


「おい、そろそろだろ」


 開けた場所にでると、ササナは馬を止める。そして、自分の足元を見た。


「薬草は、白い花が特徴って言ってたよな」


 だが、白い花はない。


 よく見ると薬草が摘み取られたあとがあった。


「近くに村があったから、そこのヤツラが摘んだのかも」


 ミサの言葉に、ササナは周囲を見渡す。


 この場所にないのであれば、別の場所に探しに行かなければならない。


「ササナは、花を探していてくれ。俺とユキは、近くにある村に薬草を分けてもらえないを聞いてくる。なぁ、ユキ。弓の練習をしたくはないか?」


 ミサの言葉に、ユキは首をかしげる。


「ただで薬を分けてはくれないだろう。狩りをして、それと交換してもらうんだよ」


 ミサは、ユキに自分の弓矢を見せた。


 ユキも弓は見たことはあったが、使ったことはない。使いたい、とも思ったことがなかった。


「飛び道具は使ったことないんだったよな」


「うん。使うのは刀とナイフぐらいかな」


 ユキは、ミサから弓矢を受け取る。そして、見よう見まねで弓をひいてみせる。だが、思ったように飛ばなかった。


「意外と力がいるんだよ。あと、矢は山なりに飛ぶからそこを計算しながら狙うんだ」


 再度力を入れて弓を弾いてみると、今度はまっすぐにとんだ。


だが、ユキは顔をしかめた。


「刀の方が牙みたいで好きだな」


 弓は、どうも性に合わない。


「なら、そっちを使えばいい」


 ユキとミサは、それぞれの武器を持って獲物を狩りに行った。


 ミサが弓で鹿を追い立てて、ユキが刀で止めを刺す。そのようにすると簡単に獲物を狩ることができた。鹿を抱えた二人は、近くの村へと向かう。


 その村は、ユキたちがやってきた村よりもずっと大きな場所であった。ミサが交渉するというのに、ユキは後ろで隠れていた。この村も柵でぐるりと囲まれており、丈夫な門だけが出入り口のようだった。


 ミサは、門をたたいた。


 出てきたのは壮年の男である。


 ミサは男に鹿と薬を交換してほしいと持ち掛けるが、拒否された。薬草は貴重なもので、鹿程度では交換できないと言われてしまったのだ。だが、男は舐めるようにユキを見ていた。その視線が気持ち悪くて、ユキはミサの後ろに隠れる。それに気が付いたミサも首を振った。途端に男は怒ったような乱雑さを見せて、門を閉めてしまった。


「ササナと合流して、薬草を探すしかないね」


 ユキはそういったが、ミサは閉められた門を見つめていた。


「どうしたの?」


「もしも、見つからなかったら盗みにはいれないかって考えてた」


 ユキは、驚いたがミサは真剣に考えているようだった。


「盗みはよくない」


「でも、俺たちにも薬は必要だ。必要なものは、奪わないと」


 ミサの考えは、仲間のことを考えるのならば正しいのかもしれない。だが、ユキはその考えが好きにはなれなかった。


「あと、ユキ」


 ミサは、ユキの頭をなでる。


「慣れないうちは、一人で他の村の人間と交渉しないほうがいい」


 ミサの言葉に、ユキは首をかしげる。


「どうして?」


「綺麗だからだ。お前の顔は、トラブルになりえる」

 

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