第10話すべてを知る者は

●すべてを知るものは


 その夜に起こったことは、スズには予想外のことだった。けれそも、その真ん中にいる人間の立ち振る舞いには覚えがあった。


 夜に死人が忍び込んだ、事件。


 その真ん中にいたのは、一人の少年。


 ユキと言う新入りの少年の立ち振る舞い――いいや気配が、かつてのイツキに似ていた静粛でありながら、たしかにそこにあるという存在感。


 スズは、思う。


 もしも、ユキと言う少年が現れるのが早かったらイツキは彼を後継者にしたであろう。だが、ユキの登場は遅すぎた。だから、彼は後継者にならなかった。


 けれども、彼の存在感はその夜にたしかに浮き立った。


 宵闇のなかで、彼だけがたしかに事件の実態をつかみ――真相に迫った。


 けれども、自分の了見以上には踏み入れようとはしなかった。賢さと神秘、その二つを併せ持った少年はササナと言う少年の下についているらしい。ササナは、特出した特徴を持たない少年だ。けれども、堅実でもある。


 その堅実の少年の下で、ユキは真実を知った。


 そして、同時にシチナシも真実を知った。


「どうしたんですか?」


 隣で寝ていた、イツキが尋ねた。


 何でもないよ、とスズは答える。


 イツキは、静かに微笑む。その穏やかな笑みが、なによりもいとおしい。布団からはみ出す、白い肩はもっと恋しい。


 スズが、イツキと初めてあったのは十年も前のことだ。


先代にイツキが後継者だと紹介されたときが、初めてであった。そのころから、存在感のある子であった。けれども、彼は表に立つことを良しとしなかった。その癖に誰よりも賢く、表に立つことなく誰よりも早く事件の真相にたどり着いていた。今回の事件も、最初に真実にたどり着いたのはイツキである。スズは、その裏付けをシチナシにさせた。そして、イツキの考えは当たっていたことが分かった。


その才能は、スズに年齢の差を忘れさせた。

 

そんなことは初めてであった。


 けれども、スズには十以上も歳の離れた子供がまるで同年代であるように思われたのだ。ユキにもおなじことを感じた。狼と育ったというが、その情報はあながち嘘ではないだろう。そこで培われた夜目や聴力、それらの人知を超えた能力がユキの年齢を忘れさせたのだ。


「スズさま」


 シチナシが、医務室に報告にやってきた。


 そして、門を開けたのはおそらくは幼子であったことを話す。そして、その幼子は村の外で死人になっていることも報告された。


 予想通りの結末だった。


 シチナシを下がらせる。


 村の脅威はなかったことが証明された。スズはそのことに好くなからず安堵を覚える。村の安念は、イツキの安全でもあった。


「あの子は……」


 ユキという少年は、もしかしたらこの世界がどうしてこんなにも死に好まれているのかを知る手掛かりになるかもしれない。スズは、そんなことを考えていた。


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