第一章
第2話出会い
●出会い
不運だった。
狼の遠吠えに馬が驚いて、乗っていたササナは振り落とされてしまった。降り積もった雪のおかげで、怪我をすることはなかった。だが、馬は明後日の方向に走っていき、ササナはそれを茫然と見ていることしかできなかった。
「嘘だろ……」
馬から落ちた場所は森の深い場所であり、狼の縄張りでもある。あまり長居はしたくない場所であった。しかも、今年は雪が多い。森の獣たちは、皆が飢えているであろう。
「とりあえず、村に戻るか。馬は、自分で戻るかもしれないし」
ササナは、白い息を吐いて森を歩きだす。
降り積もった雪を踏みしめながら歩くのだが、普段よりも大きく足を上げなければならないがゆえに疲労が早くたまる。寒さも容赦なく体力を奪っていき、ササナは今更ながらに自分を振るい落とした馬を恨んだ。
だが、雪が降りつもったことによって音は吸収される。それによって森をさまよう死人たちに、ササナの足音を聞かれなくてすむ。そのように前向きに考えていると、木の影から巨大な熊が現れた。
冬眠することができなかった熊は、凶暴であることが多い。十分な食べ物がなく、腹を空かせているからだ。ササナは腰につけていた短刀を引き抜く。こんなもので熊を追い払えるとは思えない。だが、持っていないよりはマシである。
ササナは熊を睨みつけながらも、ゆっくり後退する。
熊は、動かない。
このまま距離をとることができれば、助かるかもしれない。
そんなことを考えていると、ササナの足元から地面がなくなった。ササナの背後が坂道になっていたのだ。ササナは、坂道を転がり落ちる。地面に強く背中をうちつけ、ササナは息を飲んだ。顔に舞い上がった雪がかかり、ササナはそれを払いのける。
「くそっ!」
悪態をつきながら、ササナは起き上がる。
彼の耳に、狼の遠吠えが聞こえた。
熊だけでも厄介なのに狼まで出てきたらたまらない。ササナはそう思いながらも、その場から逃げようとした。幸いにして、熊は坂道から落ちたササナを追ってこようとはしていなかった。
それだけが、幸いだ。
突然、ことさら大きな熊の鳴き声が聞こえた。それとほぼ同時に狼の鳴き声も聞こえる。どうやら、両者が坂の上でやりあっているらしい。この隙に逃げなくては、とササナは雪の上を走ろうとする。だが、彼がその場を離れる前に、空から熊が降ってきた。
ササナは、その熊の下敷きになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます