第14話 ほめ殺し
「やっぱり人に悪口を言うのはよくない事だとボクは思うんだ」
「……唐突にどうしたんだお前は」
横田が呆れたような表情を見せるが、ボクは結構真剣だ。
「いや、この前帰り道で小学生同士の喧嘩を見たんだけどね。ほら、小学生って遠慮が無いじゃない? ちょっと傍から見てる分にも引くレベルの悪口の応酬だったからさ」
いやあ、小学生って怖いねえ。友だちに向かって○○○だの○○○○だのって……腹黒さに定評のあるボクですら躊躇するレベルの悪口を平気で使うんだもん。
「あー、確かに。たまに接すると小学生怖ええって思うよな」
「だよねー」
いやー、ボクたちも小学生の頃はあんなんだったのだろうか? そう考えるとちょっと恥ずかしいね。
「そこでだよ横田、ボクは考えたわけだ。誰かにイラっときたとき、悪口を言わずにどうやって対処するかについて」
「暇人だな。そんな事考えてる暇があるんだったら勉強しろよ」
あっは♪ うっさいよ横田。早起きしてお前の机の上に花瓶を置いてやろうか? まあ、横田の為に早起きするのが面倒なのでやりませんがね。
「一晩考えて、天才的なボクはやっと答えにたどり着いた。人を罵倒せずにイライラさせる方法、それは……」
そこでぐっと溜めをつくり、ニヤリと笑う。
「……それは?」
ほうほう聞きたいか横田くん。いいだろう、教えてやろうじゃないか。
「褒めちぎる事だよ横田!」
「…………はあ?」
ふう、やれやれ。横田の愚鈍な頭では、ボクの天才的なアイデアは理解できないようだねえ。しょうがない、説明してやるとするか。
「いいかい横田、逆転の発想だ。我々日本人は、婉曲な表現を好むあまり、人を直接的に褒めるという事があまりなく、褒められる事になれていないんだ。つまり褒められ耐性がないのだよ!」
「それが何か相手をイライラさせる事と関係があるのか?」
横田が不思議そうな顔をする。
ふう、やれやれ。だからボクは言ってやったよ。
「え? もちろん関係ないけど」
「ないのかよ! じゃあ何だよ今の説明は!?」
「特に意味は無いよ♪」
「ふざけんな! 俺の貴重な時間を返しやがれ」
「嫌でゴザルwww 絶対に嫌でゴザルwww」
「よし、てめえは俺と戦争がしてえようだな、表出ろやコラ」
「きゃあぁあああ! 助けてぇえええ! 横田がボクを襲おうとしてるぅ!」
「ちょ、おまっ、でっけえ声でなんてこと言ってんだよ!?」
いやあ、これだから横田をいじるのは止められませんな。
「まあ冗談はさておき」
「さておくんじゃねえ! こっちは甚大な被害を受けてんだよ!」
「さておき」
「…………」
「さておき」
「……………………もういいよ続けろよ」
押しに弱いね横田は。
「褒めるっていっても、もちろんただ褒めるだけじゃないよ! ちょっとしたコツがあるのさ(はぁと)」
「コツだぁ? どんなテクニックを使っても、褒められる事でイライラはしねえと思うがな」
ふっ、そんなんだから横田は雑魚キャラなのだよ! もっと柔軟な思考力を持ちたまえよ。
「じゃあ実験してみようか、ボクがそのコツを使って横田を褒めるからね」
「おう、どんと来い」
さて、ボクが一晩考えた成果をとくと見るがいいよ!
「よ、横田は身長も高くてイケメンだし羨ましいなー(棒読み&視線を逸らしながら)」
「何だこれ!? 褒められてる筈なのに視線を逸らされてるだけでイラっとくる」
さらにコレだ!
「お前また地球を救ったんだってな尊敬するよ! キラキラ」
「スケールがでけえ! しかも確実に俺じゃねえし!」
「謙遜しなくていいよ横田。地球防衛軍の一員として、仲間に舌打ちされながらも必死で荷物運びに専念してたそうじゃないか」
「確実に俺が足引っ張ってるパターンですよねソレ! しかも荷物運びって、戦ってすらいねえじゃねえか!」
「ボクはそんな横田を心から尊敬するよ!」
「その設定だと俺、尊敬する要素ゼロだろ」
「そんな事ないよ。その証拠に隣のクラスに横田が好きだって人がいて、確か名前は池沼……」
「え、マジで! ついに俺にも春が……」
「……新之助くん」
「まさかの男だと!?」
「よかったね横田、ついに春が来たよ!」
「全くうれしくねえええ!」
まあ、こんなもんかな。
「で、どうだった? 結構イライラしたでしょ?」
「いや、イライラしたけどよ。これは褒めるとかそういう次元じゃない気がするから却下だ」
「えーケチー」
「ケチで結構だ」
「横田のハーゲ」
「ハゲじゃねえよ! ふっさふさだからな!」
「横田の童貞野郎」
「的確に俺の心を抉るんじゃねえ! ってかお前もだろうがよ!」
「…………ふっ」
「おい、まさかお前……」
「どやあ」
「なんてこったぁああああああああ!」
まあ童貞ですけどね。
別に嘘は言ってないよ。ただドヤ顔して横田が勝手に勘違いしただけですから♪
「はあ、流石に褒め殺しで相手をイライラさせるのは無理があるかもね」
第一途中で飽きるしね。
「まあ暇つぶしにはなったな」
「そうだね、それは何よりだ」
暇を持て余したボクらの昼下がりであった。
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