第13話 男子会

「男子会というものをやらない?」




 ボクの突然の提案に、横田は疑問を口にする。




「男子会? 女子会ってのはよく聞くけど、男子会なんてもんがあるのか?」


「さあ? 細かい事は知らないけど、男子だけで集まれば男子会なんじゃない?」


「また適当な、男子で集まるだけだったらいつもやってるじゃねえか」


「んー、確かにいつも男子で集まって遊びに行ったりするけどさあ。なんかソレとは違うんだよね」




 なんだろう? 感覚的に男同士で遊びに行く事と男子会は別のものだってことはわかるんだけどなあ。それをうまく説明できないもどかしさ!




「そもそも女子会って何やってんだ?」


「そりゃあ、みんなでオシャレなカフェとか言って雑談したり……」




 ん? オシャレなカフェで雑談……、そうか!




「おしゃべりだよ横田! 普段のボクたちには雑談が足りないんだ!」




 そう、ボクはみんなとじっくり雑談がしたいんだ!




「雑談かあ、確かに普段集まる時には雑談がメインなんてことは無いな」




 そうだろうそうだろう!




「しかし野郎同士でオシャレなカフェとかに集まるのは精神的にキツイものがあるな」


「そう? ボクは気にしないケド」


「お前は見た目が女子だからなぁ。俺みたいなゴツイ男子からするとカフェなんてオシャレ空間は、ちょっと入りづらい空気があるんだよな」




 ボクにはあんまりわからないけど、高校生男子は何故かオシャレ空間に違和感を覚える傾向にあるようだ。




「何事も経験だよ横田! こういうのは一回経験したら気にならなくなるからさ」


「うーん、確かにこのままそういう場所に行かないってのも損してる気がするな」


「でしょ?」


「そうだな、やってみるか男子会!」


「おお、いいねそのノリは大切だよ!」




 横田もノリノリになった所で、男子会に誘うメンバーについて話し合う。




「田淵とかどうだ?」


「あー、田淵くんね。いいけど、最近彼忙しいみたいだからどうかな? 一応誘ってみるけどさあ」


 なんか、セレスちゃんとかいう後輩の美少女を口説くために忙しそうなんだよね。


「そうだ、沢井くんとか呼んでもいい?」


「ん、ああ後輩のイケメン君だっけ? 別にいいけど、ソイツ運動部だろ? 予定が合わないんじゃないか?」




 いろいろ候補を挙げて行った結果、全員が予定を合わせる事は難しいので、全員に声をかけて当日行ける人だけが集まるという方向で話は纏まった。











 男子会当日。


 学校の近くにあるオシャレなカフェに集まったボクたち。ちなみに今日集まったメンバーは、ボク・横田・菅野くん…………見知らぬムキムキの黒人男性が一人…………。




「横田……この人は?」


「留学生のゴメス君だ!」


「ハァイ! わたし、ゴメスいいマス。よろしくデス」




 …………横田よ、何故留学生に声をかけたんだ?




「はあ、まあいいか。とりあえず何か頼もうか」




 ボクたちは適当にコーヒーや紅茶などを頼むと、改めてお互いに向き直った。




「さて、今までこういう集まりなんてやった事ないからな。何をしゃべったものか」


「そうだね、改めて何か雑談をしようとなると難しいね」




 女子会とかやってる女の子たちって何をしゃべってるんだろうね?




「……なにか、……雑学的な事を言って……そこから話を広げたらいいと思います」




 おお、なるほど!




「ナイスアイデアだよ菅野くん!」




 なるほど、雑談というものはそうやって広げていくのか。




「オオいいアイデアね菅野氏! さそく雑学誰か話すデス」




 ゴメスくんの振りで雑学を思い出すみんな。その内、何か思い出したらしい横田がそっと手を挙げる。




「あ、一個思い出したんだけど。蜂蜜って腐らないらしいぞ」


「……へえ」


「ふーん」


「HAHAHA……」




 お、驚くほど話が広がらない。




「どうするのさこの空気」




 ジト目で横田を睨むボク。




「いやいやいや、俺のせいじゃねえし。ってかそもそも雑学から話題を広げるって難易度高くねえか?」


「そうやって菅野くんを責めるのか、最低な先輩だね横田♪」


「……シクシク(棒読み)」


「OH、泣かないデ菅野氏。きっといい事ありマス」


「お前ら、俺をいじる時だけは抜群のチームワークっすね!」




 いやあ、横田で遊ぶのは楽しいなぁ(はぁと)


 そして、またしばらく沈黙するボクたち。いやあ、本当に話題って難しいものだね。普段はボクたちどんな事話してたっけ?




「そうだ、折角男の子だけで集まったんだから、恋バナとかしようよ」


「恋バナ……ですか?」


「何か修学旅行のテンションだなお前」


「あっは、うっさいよ横田」


「WHAT? 恋バナってなんデスか?」


「好きな女の子の話だよゴメスくん♪」


「OH! いいデスね! やりましショウ」




 みんなが無駄にノリノリになった所で恋バナを始める事にする。




「横田って好きな人とかいる?」


「お? いきなり俺か、まあいいけどよ。うーん、好きな人かぁ。可愛いとか美人と思う女子なら何人かいるが、好きな人ってのはいないな今のとこ」




 ちぇっ、つまらない回答だね。




「……ちなみに、好きな……タイプは?」


「巨乳のお姉さん!」




 即答! くっ、この男言ってる事は下種なのに、なんてキラキラした目をしているんだ。まるで将来の夢を語る小学生のように純粋な瞳をしてやがる。




「ずいぶんと好みがはっきりしてるんだね横田」


「おうよ! 巨乳は正義だぜ! 貧乳なんて論外、胸は大きいほうがいいに決まってる!」




 ……ほほう? 言うねえ横田のクセに。




「横田、それはボクが貧乳好きだと知っての発言なのかな?」




 ボクはボキボキと指を鳴らして横田を威嚇する。




「トラか、だが俺もこればかりは譲れない! 大きいおっぱいこそ正義!」


「いいよ横田。ならばボクらはわかりあえない……戦争だ」




 ボクたちは、お互いの譲れないモノの為に争うしかない。二人の視線がバチバチと音を立てて交差するなか、黒く太い腕が割り込んできた。




「喧嘩よくないデスネ。仲良くしましょーヨ」




 ゴメスくんである。ゴメスくんは人懐っこい笑みをを浮かべながらボクたち二人の肩を親しげにポンポンと叩いた。




「ゴメスくん……うん、そうだね。折角集まったのに喧嘩はダメだよね」




 いやあ、良い子だねえゴメスくんは。




「ごめんね横田。ちょっと熱くなりすぎたよ」


「いや、俺の方こそすまん。好みは人それぞれだよな」




 険悪になりかけていた空気はゴメスくんによって救われた。




「さて、気を取り直して恋バナを続けていこうか」


「そうだな、じゃあ次は……菅野かな。菅野、お前は好きな女子とかいるか?」




 横田の言葉に、菅野くんはしばらく考え込んだ後、ふるふると首を横に振った。




「……今は……特にいないですね」


「ん? そうなのか? てっきり例の幼馴染の娘が好きなのかと思ってたんだが」




 横田が意外そうな顔をする。




「……アイツとは……そういうのじゃ……ないので」




 うーん、なんか菅野くんの恋愛事情も複雑そうだねえ。




「なんだいなんだい、横田といい菅野くんといい、おもしろくない回答だねえ」


「はいはいスイマセンね、そういうトラは何か恋バナ語れるのか?」




 むっふっふぅ! よくぞ聞いてくれたよ横田。




「それではボクが語ってやろう! ボクの好きな人の話をなあ!」




 括目せよ愚民ども! これがボクの愛だ!




「ボクの好きな女の子は葵ちゃんだよ! 今回はボクがこの世で最も愛する葵ちゃんの魅力についてたっぷりと語ってあげよう!」


 さあ、葵ちゃんの魅力に酔いしれるがいいよ!






二時間経過






「……ってなわけでね、それはそれは可愛いんだから! どう? 君たちも葵ちゃんの魅力について理解できた?」


「おっ、ここのケーキ結構美味いな」


「……そう、……ですね」


「HAHAHA」




 ちょっ、コイツ等ボクの話聞いてない!




「ちょっとちょっと、なんでボクの話聞いてないのさ!」




 失礼な奴らだね。


「いやいやいや、お前の話が長すぎんだよ。何でそんなに話す内容があるんだよ、アホじゃねえの?」


「そう? これでも少し自重したんだけど」




 ボクが本気で葵ちゃんについて語り出したら二時間じゃあ治まらないよ。


「……なんつうか、お前凄いのな」


「? なんだかわからないけどありがとう」




 何故か褒められてしまったよ。


「……気を取り直して、ゴメスくんの恋バナでも聞くかな。ゴメスくん、恋バナとか語れる?」




 横田の質問に、ゴメスくんは陽気に答えた。


「OH、ワタシの番デスカ。オーケイ、恋バナをしまショウ」




 ゴメスくんはコーヒーを飲み干すとゆっくりと口を開いた。


「実はワタシ、国に恋人が居るのデス」


「へえ、そうなんだ」


「ゴメスくん、その娘は巨乳なのか? そこが重要だぞ」


「……横田先輩……自重してください」




 ボクたちのやり取りをニコニコしながら眺めていたゴメスくんは、場が静まったのを確認すると、続きを話し始めた。




「ワタシは日本が大好きデス。だがら日本の文化学ぶ為、日本に留学したい思ってマシタ。でも、ワタシの家貧乏、お金ありまセン。留学、お金かかりマス」




 お金が無かったゴメスくんは、それでも日本への憧れを捨てきれず、日々アルバイトをして資金をためていたという。




「ワタシ、頑張りまシタ。けどお金、なかなか貯まりマセン。そんな時、彼女がワタシにお金差し出したデス」




 ゴメスくんは最初、そのお金を受け取らなかった。そのお金は彼女が苦労して稼いだものだとわかっていたからだ。しかしその時、彼女は笑って首を横に振ったという。曰く、「ゴメスの幸せは私の幸せなんだよ? 行っておいでゴメス」と。




「だからワタシ、彼女にとても感謝してマス。彼女の事がとても大好きデス」


 良い笑顔で語り終えたゴメスくん。




「なんて感動的な話なんだ! 素晴らしいよゴメスくん!」


 最初見た時にうさんくさい黒人とか思っててごめんねゴメスくん! 君はとても純粋でいい子だよ!




「いやあ、こんな場で感動的な話が聞けるとは思ってなかったぜ」


「…………グッ(無言で親指を立てる菅野くん)」




 ボクたちはしばらく、ゴメスくんの話の余韻に浸りながらしんみりとコーヒーを啜っていた。心地の良い無言の中、ぽつりと横田が言葉を漏らす。




「あー、彼女ってどうやったらできるのかな?」


「うーん、どうだろうね? ボクは彼女とかいないからわからないな」


「へえ、今まで彼女居た事ねえの?」


「そうだね」


「意外だな、お前はなんだかんだモテてそうな気がしたんだが」


「モテるよ? でもボクは葵ちゃん一筋だからね。美人とかイケメンは好きだけど、恋人にしたいのは葵ちゃん一人だけさ」


「さらりとモテるアピールしやがって……、まあトラはいいや。ゴメスくん、彼女ってどうやったらできるの?」




 このメンバーの中で唯一恋人の居るゴメスくんに話を振る横田。


「彼女をつくる方法デスカ? そうデスネ、好きな女性の友だちと仲良くなる事カラ始めるといいデスヨ」




 ゴメスくん曰く、女子はそもそも集団で行動する場合が多く、なかなか一人で居る時がない。意中の子といつも一緒に行動している仲の良い女の子と仲良くなれば、その後の展開がだいぶ楽になるという事だ。




「マジでか! まさかこんなに実践的なアドバイスが貰えるとは思わなかったぜ。ありがとなゴメスくん! よっしゃ、コツもわかった事だし俺に彼女ができる日も遠くないかもしれないな!」




 一人でテンションを上げている横田にボクはそっと一言。


「でも結局は顔なんだよね」


「………………ぐはぁ」




 おお横田よ、死んでしまうとは情けない。


「ちくしょー、覚えてやがれ!」




 横田が号泣しながら店を飛び出していく。律儀にコーヒーの代金を置いていくあたり、横田の人間性がわかるというものだ。




「さて、横田もいなくなったし……ボクたちも解散しようか」


「OH、楽しかったデス」


「…………また、誘って下さい」




 思いつきで始めた男子会だけど、予想した以上に充実したものになった。また別の人を誘って男子会やろうかな? そう思えた今日この頃であった。

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