殿

 地下4階へ続く階段を下りながら、ディアスはバルクに尋ねた。


「--本当にあの2人だけで良かったのか?確かに2人ともやるようだが流石にあの数は--」


「あ?まだそんなこと言ってんのか?めんどくせぇな、もう4階着くんだぞ!それに、本当に無理だったら特にルニアは最初に言う。それがなかったんだから大丈夫だ!」


「なんという曖昧な……」


 まぁ気持ちは分かるよ。側から聞いてりゃ完全にただの精神論というか感情論というか。俺も最初はそう思ってたしな、だけど--


「確かに曖昧だよな。だけど不思議と俺もそう思ってる。--なんでだろな?」


 やっぱ信頼してるってことなのだろうか。少なくとも、あんな雑魚達にあの2人が負ける未来が見えないことだけは確かだ。


「……まぁいい。言っていても仕方ないしな」


「--よしお前ら!無駄話は終わりだ!--着いたぜ」


 地下4階、レヴィ達がいる場所まで残り1階。


 そこに入ると、いきなり複数の犬型モンスターが襲いかかってきた。咄嗟のことに反応が遅れ、俺は腕を噛まれ、ディアスは足を噛みつかれていた。


 一方のバルクはというと、流石はAランクといったところか、冷静にモンスターを攻撃し、俺たちに噛み付いている2匹も霧散させた。


「いっつぁー!あいつら病気とか持ってないか?大丈夫かな?」


「クソ、油断した」


「おいおい、油断すんなっつったろうが!この程度の敵、お前らなら問題ないだろ?それに病気はねぇから安心しろ」


「「……すいません」」


 気を取り直し、フロアへ足を踏み入れる。するとそこには3階と比べると少ないが大量のモンスターの群れ、そして、本来ならもう人階層下にいるはずのボスモンスターがいた。


 そのボスは例えるなら大きな狼と言った感じだ。神話で言うとフェンリルのような感じか?見たことはないがそう例えたくなるくらいでかい。おまけに目が真っ赤だ。


「仰々しいなおい。流石はボスって感じの風貌だ」


 俺がその大きさと迫力に少し固まっていると--


「……さて、今回はどうすっかな?誰が残る?やりたい人手ぇ挙げて!」


 突然のバルクの発言に俺たち2人は戸惑いを隠せなかった。


「……ボスとこの大量の群れを引き受けるんですか?大人しく3人でやった方が--」


「君と意見が被るのは尺だがその通りだ。これは2人だと手に余るぞ」


 バルクは俺達の意見を聞き、少し頭をひねると、にかっ!っと笑った。


「んじゃっ!俺1人でやるわ!」


「「--は?」」


 また合った。てかほんとに何言ってんだこいつ?流石にこれは無理があるだろ。


「なぁバルク、話聞いてたか?2人でも手に余るって言ってたんだけど……なのになんで今1人言うた?」


「馬鹿だ……馬鹿がいる。話を聞かず自滅するタイプの馬鹿が」


「お前らな……ちょっとは尊敬とか敬愛とかそういうのないのか?--いいから任せとけよ、それとも俺じゃ無理だと思うか?」


「思いたくはねぇけどこれは流石に……」


「--まぁ見てろって!今からこの有象無象半分以下にしてやるからよ」 


「……流石にそんなこと……出来るわけが--」


 バルクは体から大量の砂を発生させ、それを上空へとばらまいた。その範囲およそこのフロア全体。


「これって……あ、ディアス」


「……なんだ?」


「--巻き込まれんぞ」


「?一体何に--」


 そういい、ディアスは何気なく巻かれた砂を見ると、ドン引きしているような表情になっていた。


 バルクとの戦いで見せられた無数の砂の槍を落とす技。今回は相手がモンスターということからなのか、その本数は以前の倍以上にものぼった。


「な……なんだあれは?……槍?というかさっき巻き込まれるって言ったよな?何にだ?もしかしてあれにか!」


「……うん。」


「おいおい!人聞きの悪りぃこと言うなよ!お前らには当たんねえよお傘作ってやっから--砂の傘いさごのかさ


 俺達の上に体全体を覆う大きさの編笠のような形の防御膜?が出来た。これ貫通しないよね?大丈夫だよね?


 ディアスも同様に考えているのか、怪訝な表情を浮かべている。


「んじゃあそろそろ落とすぜ、その間にお前らは先に行け、良いな!--砂魔法、砂の街には槍が降るランサデラビオッチャ!!」


 バルクが右手を振り下ろす。それを合図に天井の槍が一斉に降ってきた。


「ほれ!早く走れ!すぐ切れっぞ」


「お、おう!絶対助けて帰ってくるから!ここは任せたぞ!」


「……これが……Aランク」


 俺たちは走り目的地である5階へ続く階段へと走っていく。その道中、凄まじい勢いでモンスターが霧散していくのを見た。中には声をあげる間も無く消える奴がいる程だった。戦った時は拒絶があったから良かったがもしなかったらと考えると恐ろしいな。


 階段前まで到着し、俺は背後を振り返る。槍の雨でほとんど見えなかったが、うっすらとバルクがこちらにgoodサインをしながら笑っていた。それだけで何故か不安が飛んでいくから不思議なものだ。


「……行こう、ディアス!」


「……分かっている」


 俺は2人に着いている傘を吸収後、階段を下りはじめた。


--------------------


「--ついに2人だけだな」


「……そうだな。君とこうして一緒に何かをするなど、思わなかったよ」


「そりゃこっちの台詞だ。あの高飛車貴族様とこんな風に一緒にいること自体考えてなかったよ。てか丸くなったよなお前」


「……命令だからな、仕方なくだ」


「ふぅーん、あっそ。でも良いと思うぞ今のお前。結構喋りやすい」


「--勘当されたんだよ、オレ」


「--えっ?」


 突然の衝撃の告白に、思わず足を止めてしまった。


「何をしている?止まっておる時間はないだろ?」


「ああ、悪い!」


 俺は再び歩を進め始めた。


「……あのさ、勘当されたのってやっぱり俺との戦いのせいか?」


「……まぁ、そうだな。オレみたいな恥知らずは要らないみたいだ。どちらにしろ3男だったしね、権力はないようなものだったけど」


 俺のやったことが間違ってたとは思わないが、それでも少し罪悪感が漂った。


「それまでオレといた人物達はみんないなくなった。街の人達も一掃白い目でオレを見るようにもなった。--だが、そんな時にもあの2人だけは、コロニスとカーフだけはオレの元から離れないでくれた。直接は言えんが・・・感謝している。丸くなったと言うならそのおかげだろうな」


「……そっか、良い奴らだな!」


「ああ、あいつらに相談し街の人達に謝罪して回った。勿論君との約束であるあの店主には真っ先に謝罪に言ったよ。正直殴られるつもりで言ったのだが、誰もオレを叱りこそしたが怒りをぶつける者は居なかった。許された。・・・温もりとは、ああいうものをいうのだと初めて知ったよ」


 そう言ったディアスの顔は、少し綻んでいた。


「……ディアス、帰ったら俺とチーム組まないか?」


「--はっ?何を……?」


「俺さ、お前のこと気に入っちゃったんだ!だからさ、ダメかな?」


「……っ!……ふっ、もう一度君がオレに勝てたら入ってあげよう!今度はマグレではなく実力でな!」


「んなっ!お前やっぱ変わってねぇんじゃねえか?!」


「うるさい黙れ急ぐぞ!」


「ぐっ……!分かってるよ!」


 俺にだけ当たりの強いディアスだが、以前のような不快感はそこにはない。むしろなんだか安心する。こいつと2人ならどんな敵だって倒せると何故だか自信が湧いてくるようだ。


「ささっと倒してささっと救って、ささっと帰ろうか!ディアス!」


「精精足を引っ張らないでくれよ……蓮!」


 俺たちは拳を突き合わせ、レヴィ達のいる地下5階へと足を踏み入れた。

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