レヴィ・ドルシア
私の名前はレヴィ。レヴィ・ドルシア。
ギルドマスターであるガリレア・ドルシアの孫にして、現在Bランクの冒険者だ。
お爺ちゃんの紹介で一時、アリア・マクベスさんの元で修行を積んだ。本当に一時ではあったが、アリアさんにはとてもよくしてもらい、たまにクエストを手伝ってくれるような間柄になった。
そんなアリアさんがある日、1人の青年を連れてギルドへやって来た。名前は指宿蓮。私と同い年くらいで、どうやら脳無しなのだという。そいつは初対面にも関わらずものすごく生意気だった。何が礼儀を学べよ!あんたにだけは言われたくないわ!
後から聞くと、その青年はEランク、つまり最低ランクと認定されたらしい。あんだけ私にでかい態度とっておいて、しかも脳無しなのにEランクって・・・嘲笑を通り越して哀れに思えた。
ある日、ギルドが何やら騒がしかったので、話を聞いてみると「Eランク冒険者がディアスの奴と決闘すんだとよ!」とのことだった。
Eランク……もしやと思いアリアさんの家へと向かうと、目に映ったのは脳無しの青年、そしてその彼に修行をつけているであろうアリアさんの姿だった。
--ショックだった。何より、修行が終わった後に見せたアリアさんの表情が、今まで見たことのないほど穏やかで優しかったことに。
そして同時に怒りを覚えた。彼にではない。ましてやアリアさんでもない。--私自身に対してだ。唯一じゃなくなった、私の知らない顔を向けられている、たったそれだけのことで嫉妬を覚えた醜い私自身に、言い知れぬ怒りが湧いた。
そしてディアスとの決戦当日、私は観客席で彼の戦いを見ることにした。アリアさんが修行をつけた男が一体どれほど尽力するのか、どれくらいで諦めるのか。そんなマイナスな感情を胸に足を運んだ。
開始早々彼は魔法で吹き飛ばされた。--もう終わりか、流石に呆気ない。
そう思った矢先、彼は立ち上がった。それを見たディアスは何度も攻撃を仕掛ける。初めのうちこそ当たっていたものの、次第に避けられるようになっていた。
「……嘘……!」思わず声が漏れる。ディアスはCランク、しかも実力はBランクにも引けを取らない。つまりEランクでは話にならない相手の筈、なのに対応して来ている。そんなこと・・・あるはずがない。一体どれほどの努力を重ねればこれほどまで--
しかしディアスも馬鹿ではない。技を変更して来た。なかなか抜けられぬ重力の塊。これは流石に--そう思ったのだが、急に魔法が消滅したかと思えば、何と彼が重力魔法を放った。傷をつけるには至らなかったが対するディアスは相当動揺していた。
対して、彼は苦悶の表情を浮かべていた。恐らくさっきの一撃で決めたかったのだろう。度重なる魔法攻撃による身体的ダメージは如実に現れ、体もふらついている。それでも彼は諦めた目はしていない。掴んだ剣も離さない。どれだけ体が震えようと、息を切らそうと、血を流そうと彼は諦めていない。
--何がどれだけ尽力するかだ。何がいつ諦めるかだ。私は心の中で、アリアさんのご機嫌とりのためだけに修行し、この決闘に臨んでいるのだと思っていた。しかしそれは全く違った。彼は本気なのだ。本気で学び、本気で勝とうとしている。
彼に対し、ディアスの魔法が打ち付ける。会場全体が、終わった。という空気に包まれた。
今まさに終わろうとしている。その彼に、こんな私でも出来ることは?・・・姉弟子としてかけるべき言葉は何だ?侮蔑か?嘲りか?そんな訳がないだろ!私がかけるべき言葉は--
「--あんたなにやってんの!!」
「あんた、アリアさんに修行つけて貰っといて何も出来ずに負けるの?あの時神に誓ったんでしょ?アリアさんに迷惑かけないって!あんたがここで負けたら迷惑よ!だから……勝ちなさい!!」
--勝ちなさい。本当は「勝って!」って言うつもりだったのに……私って奴は。
すると、偶然か、或いは私の高飛車な声が届いたのか、彼は意思を取り戻しディアスに突撃し魔法を放った。そして--勝ってしまった。
……本当に勝った。最低ランクが……ついこの間始めて冒険者になったような人が、格上のディアスに。恐らく最初の私であればこの勝利に苦虫を噛みつぶしたような感情になっていただろう。だが今はそんな感情は湧いてこない。今はただ--お疲れ様……!と、素直にそう思う。
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決闘が終わり、控室。彼はここでアリアさんに看病されていた。気絶してから3時間が経過し、ようやく彼は目を覚ました。
ちゃんと言わなきゃ、お疲れ様におめでとう、そして……ごめんなさいを。
いざ一歩を踏み出しまずは第一声--
「--ようやく起きたのね。あんた3時間も寝てて、挙句アリアさんに看病させるとか、何が迷惑かけないよ!」
--違ーう!!違うから!なんで?なんで素直に言えないの私?!開口一番こんなこと言ったら完全に嫌な奴じゃない!まぁ間違ってはないんだけど……。
彼どんな顔してるだろう?そう思い、徐に表情を窺うと、かなりへこんだような表情を浮かべていた。
そりゃそうよね、ほんとごめんなさい!
その直後、彼は何か思い出したような顔をし、「……えっとさ、レヴィ?」と声をかけて来た。
--えっつ?!何?何を言われるの?それより今名前……!!
何事かと思い、彼に聞いてみると、「レヴィ……あの時声掛けてくれてありがとう。この決闘、勝てたのはお前のおかげも大きいよ」と言ってくれた。声……届いてたんだ。しかもそのおかげって……!恥ずかしくなり私は顔を背けてしまった。
「きゅ、急に何よ!そもそも私はあんたの応援とかはしてないわ!アリアさんの為に勝ちなさい!って言っただけよ。だから……お礼なんていらない」
咄嗟に出た言葉だが、あながち間違ってはいない。お礼なんていらない、もらって良いはずがない。お礼を言われて嬉しいなんて……いけない。
その場はなんとか強がりで罪悪感を表に出さず別れることが出来た。しかし同時にごめんなさいを言えなかった。やっぱり私……弱いな。もっと、強くならないと……。
翌日ギルドへ向かうと、入り口でアリアさんに会った。どうやらこれから彼とクエストへ向かうそうだ。
いつもならアリアさんの元へ走り込んで行くのだが、今日は行かなかった、行けなかった。弟子に激しく嫉妬した上、昨日の決闘、負けてしまえと思っていたのに、行けるわけがない。少し急ぎ足でギルドへ入ろうとした時--
「やぁレヴィ、おはよう!」
速攻でバレた。まぁギルド前にいるんだからそりゃバレるんだけど。
「お、おはようございます。アリアさん」
私の様子がおかしく見えたのか、アリアさんが怪訝な表情を浮かべ近づき、そして、自身と私の額に手を当てた。
「--うーん、熱はなさそうだな。だとすれば……何があったの?レヴィ?」
「……えっ?なんでですか?なんでもないですよ!」
「最初になんで?って聞く奴は絶対何か隠してる」
「うっ……!アリアさんには、関係ないことですから。ごめんなさい急いでるので--」
そう言って無理やりアリアさんを振り抜こうとした時--
「--レヴィ、お前は私の可愛い一番弟子だ。なんでもじゃなくて良い。だけど、誰かに話したくなった時には……私になんでも相談してくれ!私のこの頭は、耳は、体は……いつでもお前の為に空けている!」
……私は何を勘違いしていたんだろう。この人が私を見てくれなくなるなんて、そんなことある訳なかったんだ。ほんとうに私って奴は……
「--ありがとうアリアさん!でも大丈夫。私はもう……貴方に救われたから!今度は……私の弟弟子の為に空けてあげて!」
やはり私は私が嫌いだ。しょうもないことで嫉妬してしまう私が嫌いだ。だけど……これから先、彼を妬んだりすることは未来永劫ないだろう。根拠はないが、本気でそう思えた。
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とある薄暗い洞窟で私はあることを思い出していた。それはある青年との約束。一緒にクエストに行こうと言う冒険者同士なら当たり前にある約束。だがそんな当たり前が今は愛おしく、切ない。
私は同ランクの女性冒険者3名と共にクエストに向かった。モンスターが多く多少苦戦はしたものの、4人で一緒に戦ったこともあり無事に最終フロアである地下5階まで到達した。ここでボスを倒し少し見回り調査終了。その筈だった。
しかし現実は全く異なっていた。恐らくボスであろうモンスターが1人の人間?に追い詰められ、逃走していたのだ。その人間は髪が白く、舌が何故か二股だった。
そしてそいつは唐突に--「ニンゲン!!」そう言い私達に襲いかかって来たのだ。人間相手ということもあり、流石に攻撃を渋っていたのだが、チームの1人が防御用に放った魔法がそいつの左腕に着弾した。その時、私は目を疑った。
--なんと、その腕は地に落ちることなく霧散したのだ。つまりこいつはモンスターということである。
私は一瞬動揺で体が止まったが、なんとかすぐに意識を戻し、チームにいた透明化魔法を使える子に、このことをギルドへ報告ように頼んだ。その間残りの3人でこの化け物を食い止めなければならない。どんなに急いでも今日から6日はかかる。その間生き延びねばならない。
実力的になんとか戦えない相手ではなかったが、いかんせん体力が持たない。私たちは1人ずつ交代で休みながら戦うことになった。しかしそれでも日に日に体力や気力は無くなっていく。
そして6日目の今日。ついに均衡が崩れた。チームの1人が、度重なる疲労から足がもつれ奴の前で転んでしまった。それを見逃すはずもなく、彼女は目の前でその命を散らした。
1人殺された、これは休めなくなるということもそうだが、それ以上に精神面に大きなダメージを与えた。一緒にいたもう1人の子は全て諦め、自らその命を絶ってしまった。
私も一瞬諦めかけた。だが立ち上がり、ありったけの力でモンスターと戦った。その原動力は--彼と交わした約束だった。あれを果たすまで、私は死ねない!死にたくない!
私は最後の力を振り絞り、相手の心臓めがけ大技を繰り出した。しかし、私が思っている以上に体は限界を迎えていたらしい。魔法は僅かに逸れ、相手の脇腹を少し抉る程度のダメージしか負わせられなかった。
--ごめんね……結局……何も出来なかった。約束守れなかったし……そういえば……ごめんって言えてないなぁ……本当に……私は……
膝をつき天井を見上げた私に容赦なく魔法が放たれる。--あぁ、これで……終わり--
「--
--放たれた魔法が消失する。消え失せた魔法のその場所で……約束の人がそこにいた。
「約束、果たしに来たよ--レヴィ!」
「ーー蓮……!!」
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