第51話
「えっと……とりあえず場所を変えましょうか」
苦笑を浮かべながら鳴川さんと源さんに提案する僕。
本音を言えば本気で《転移魔法》を行使したい。
なんなら瞳術でこの場を乗り切りたいのだけれど、肝心のリゼから反応がない。
まあ、この程度のことで魔眼を開くんじゃないという意思表示なんだろうけど……ドライだ。
もちろんシルからも応答なし。
解せぬ。
「おいおい。俺様を無視するとは大した度胸じゃねえか」
「……知り合いかしら?」「知り合いなの?」
九条さんは僕を見ながら話しかけてくるもんだから、二人が興味津々だ。
そりゃそうだよね。
真っ赤なドレス&肩に毛皮を乗せた女性が高級車から降りて来てるんだもん。
気にならないわけがない。
というかツッコんでもいいだろうか。
マダムかよ! なにその格好⁉︎ いや似合うけど! ある意味九条さんらしいけれども! バリバリに注目されているじゃないか!
おかげで知り合いだと答えるだけでも勇気がいるじゃないか! なんなら他人ですと言い放ってしまいたいぐらいだよ!
「どっ、どちら様でしょうか……?」
ああっ! 口が滑っちゃった。ぬるりと漏れちゃった。
「あア″ん?」
ひぃっ! 誰か助けて!
「えっと……なんのご用でしょうか九条さん」
「ふざけたこと言ってんじゃねえぞ。なんの挨拶もせずに姿を消しやがって。お前には失望したぜ。お詫びに俺様の親に挨拶へ来い!」
ああダメだ。この
僕が額に手をおいて「はぁ……」とため息をこぼした次の瞬間、
――ガタガタガタッ!!
丸椅子を引き摺らせながら立ち上がる鳴川さん&源さん。
えっ、ちょっ、何?
言っておくけど僕のキャパは九条さんが登場した時点でオーバーしてるからね?
「どういうこと龍之介くん!」「どういうことかしら龍くん!」
両腕に花から棘に早変わり。容赦なくチクチクと刺してくる。
色んな意味で血まみれだ。
「僕にもよくわかりません」
「「はぁっ⁉︎」」
今度はダンッと机を叩く二人。あまりの勢いにティーカップが跳ねてガシャンと着地する。ダチョウ倶楽部じゃん。
「ああ、そういうことだな……」
そんな光景を見て何やら不敵な笑みを浮かべる九条さん。
やめて、僕のライフはもうゼロよ!
「単刀直入に告げる。佐久坊は俺様の唇を奪った男だ。甘いラブコメタイムは一旦終了しろ。悪いがこいつに用がある。今日はお開きだ」
九条さんは一才動じることなく鳴川さんと源さんにそう告げる。
僕を無理やり立たせて腕を回してくる。
傍若無人ではあるけれどやっぱり女性なんだよね。柔らかい感触が腕を包むこんでくる。
「ちょっと!」と引き摺られていく僕のもう片方の腕が突然引っ張られる。
見れば鳴川さんと源さんが綱引きのように掴んでいた。
「「あア″ん⁉︎」」
今度は二人が九条さんに鋭い眼光を飛ばしていた。
どうでもいいけど僕の腕を離して欲しい。
「おいおい。佐久坊の両腕を引き千切るつもりかよてめら。さっさと離せ」
「「貴女が離しなさい」」
どっちでもいいから! どっちでもいいから離してよ!
痛い、痛い、痛い……本当に千切れちゃうよ⁉︎
「ほう。俺様に楯突こうってのか?」
かすかに漂ってくる敵意。
てっきり九条さんから発せられたものと思っていたのだけれど、
「ちょっと躾がなってないんじゃないかな?」
「どこの馬の骨か知らないけれどいい加減にしなさいよ」
なんと源さんと鳴川さんからも匂ってくる。
いやもう本当にやめて……。お願いだからやめて。
「諦めの悪いお嬢ちゃん達だな。言っておくが俺様は佐久坊に無理やり迫られて唇を重ねられた――傷物にされた女だぜ? そういう股に足まで潜らせて来たっけな? どちらが優先されるべき女かは一目瞭然だと思うが?」
すごい。頭のネジのぶっ飛び方が異常だ。
よく一般市民の前でテロリスト襲撃時のことをベラベラ喋れるなこの人。
問い詰められたらなんて答える気――って、そうか! 言えないからか! テロリストの目を誤魔化すためにやむを得ず人芝居打ったことを告白できないと踏んだんだ!
魔王軍よりタチが悪い!
「キスの件は後でみっちり詰めるつもりだけど――」
「――まずは貴女と龍くんの関係をきちんと説明するのが先よ」
さっきまでの相性の悪さを感じさせない見事なコンビネーション。
でも僕、あとでみっちり詰められるんですね。
「おいおい。なんだこのじゃじゃ馬女たちはよ。佐久坊からも言ってやれ。九条様とお城のホテルに連れて行って欲しいですって」
馬鹿なのかな。この人は本当に馬鹿なのかな?
そう言えばテロ制圧時に完遂の報酬に「俺様をくれてやる」とか何とか言っていたような……ハッ! まさか本当にそのお礼に⁉︎
いやいやいや! 嘘でしょ! けど九条さんならやりそうな気もする。
だって馬鹿だから! 頭がおかしいから!
もちろんお城のホテル=ラブホテルと一瞬で脳内変換した鳴川さん達は、
「どういうこと?」「どういうことかしら?」
掴んでいた腕に爪を立てて詰めてくる。
解せぬ。
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