第22話

「まさか本物のひったくりと勘違いして追いかけて来るとは……色んな意味ですげえな兄ちゃん!」

「あっ、いや、それほどでも……」

「あの身のこなし、どこの養成所で習った?」

「……その、異世――外国で」


「「「外国⁉︎」」」

 アクションシーン撮影に乱入したことが判明してすぐ。

 休憩所に連行された僕はスタントマンやアクション俳優さんたちに囲まれていた。


 始めこそ不審者扱いされたのだけれど、誤解が解けるや否や、質問攻め。

 どうやら軽トラでの一戦は惹かれるものがあったらしく、いつの間にか好感的に接してくれるようになっていた。


 ただあの場を沈静化させるために、それなりにアクションを嗜んでいるという嘘は避けては通れなかった。おかげで僕は後で地獄を見ることになる。


「いやあ、本当にすごかったよ。お姉さんすごく興奮したもん」

「そっ、そうですか?」

 腕が接触しそうな距離で褒めてくれるのはみなもとあきらさん。


 見た目こそギャルなのに実はスタントウーマン。

 高校卒業してすぐにこの世界に入ったとのことだった。

 僕より二年先輩になる。


「おいおいあの玲ちゃんが色目使ってるぞ」

 はて。色目とな。

「当然でしょ! 事務所にはあんた達みたいなむさ苦しいオヤジしかいないんだからさ。数少ない出会いのチャンスは逃さないタチなのよ」


「どうも、竹野内豊です」

「どこがよ⁉︎」

「「「ははは」」」


 なんというかすごく楽しい空間だった。

 異世界でこそ気心の知れた友人はいたけれど、現実世界でそういう人はいない。考えてみれば当然だ。最底辺の状況で転生し、帰還したんだから。


 受け入れられている空間に身を置いてしまった僕は、一緒にいて楽しい、信頼できる友人や先輩が欲しいと思うようになっていた。

 アクションシーンに乱入するというハプニングに出くわしたものの、新たな願望を自覚できたのは大きかった。


《異能》と一緒に現実世界にやってきたからこそ、何者になるか、何をしたいのか、ということも考えていかないといけない。


 そういう意味では格段に向上した肉体を活かせるスタントマンというのも将来の選択肢の一つになりうるかもしれない。


 ちなみに言い逃れができない棒の出現は、マジックを嗜んでいるということで押し通すことにした。いやかなりギリギリではあったんだけどさ。

 だけどこれは使えるんじゃないかと確信していて。都合の良い言い訳を見つけたと思っている。


 魔法というのは言わばタネのないマジックだからだ。

 タネがあるように錯覚させれば魔法はマジックに成り下がる。

 いずれにせよ荷台で《聖剣》を引き抜かなかったことが功を制したよ。召喚してたら迷わず幻術を発動しないといけなかったからね。


「ねえ、例のシーン、龍之介くんに入ってもらうのはどう?」

 突然、提案する玲さん。声が弾んでいるように思えるのは勘違いだろうか。

「えっ」


「おっ、いいね。俺もちょうど同じことを考えていたところだ」

「いやあの……!」

 僕には鳴川さんと会う約束があるし、何よりこれ以上目立つのも……。


「ねっ、お願い! もし協力してくれたらお姉さんがご褒美あげるからさ。ねっ、ねっ?」

 古今東西。美女の合掌&上目でお願いされておきながら断れる男はいるだろうか。いいや、いない。

 

 頼られて悪い気がしなかった僕はついつい押し切られてしまう。

 まっ、裏方で顔も放送されてないようだし、ちょっとだけならいいかな。

 そう思っていました。念入りなミーティングとストレッチに入る一時間前までは。

 

「よーい、アクション!」


 現状を説明しよう。

 僕が立っている場所――ビルの屋上。高さは十分。

 これから撮影するシーン――ワイヤー一本でここから飛び降りるところ。


 しかも、

「ふふっ。私のことちゃんと守ってね龍之介くん?」

 なんと玲さんをお姫さま抱っこしながらときた。


 ……はっ?


 いやいやいや!

 高層ビルから飛び降りって――それも会ったばかりの学生にやらせるとか、どんな神経してるのさ!


 いや魔王軍討伐の際に空中戦なんか腐るほどあったわけだし、これぐらいなら全然へっちゃらだけど、いくら何でもツッコミどころが多すぎでしょ!

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