第20話

 撮影現場の近くまでやってきた僕は花屋で差し入れを吟味していると、突然《未来視の魔眼》が発動した。

 

 名の通り、未来を視ることができる魔眼。

 一見、無敵のように思えるこれも実は様々な制約――もとい弱点がある。

 最たるものが開眼しないと、未来を覗くことができない点。


 言うまでもなく全てが終わってから開いても何の意味も為さないわけで。

 己に降りかかってくる危険や気配を事前に察知するからこそ、最大の効果を享受できるわけだ。

 そんなわけで僕は《未来視の魔眼》が自動的に発動するようにトリガーを設定していた。


 もちろんタダとはいかない。トリガーの代償として24時間、365日、魔力を消費し続けている。

 トリガーは主に二つ。


 ①術者が損傷する可能性があるとき


 ②に発動が妥当だと判断されたとき


 僕には師匠から受け継いだ〝偽善者〟が根っこにある。対象が善人に限り発動される仕組みだ。 


 さらに発動対象、発動範囲(距離)、現実から未来となるまでの時間、背景の確認なども設定できる。


 細かく設定している理由は魔力の消費が激しいから。

 魔力量の20%はこのトリガーに持っていかれている。

 とまあ、余談はこの辺にしておいて。


 上記の条件から開眼した僕の眼に未来が流れ込んでくる。

 どうやら反対車線から軽トラが猛スピードで通過するらしい。

 乗車しているのは二人。運転手と荷台に一人。


 どうやら若い女性のバックを奪い取った犯人が信号待ちをしていた軽トラの荷台に飛び乗ったようだ。

 本来《未来視の魔眼》は事実発生の背景まで視ることができるんだけど、魔力の消費が膨大だし、そっちは《導の魔眼》で確認することにしている。


 運転手と荷台に飛び乗った男たちが共犯なのかは不明だけど、僕はすぐに駆け出すことにした。と言うのも花屋の筋を通過するまでに時間がないからだ。


 駆け出したのはいいものの、路駐している車が並んでいるせいで、反対車線が見えない!


 ……ああ、もう参ったな。


 すかさず《付与魔法》を発動。両脚の筋力を向上、跳躍力を叩き上げる。

 路駐している車の家根を次々に飛び降りながら、こちらに迫ってくる軽トラを眼で捉える。


 軽トラと交錯する寸前に荷台に飛び移る僕。

 着地した寸前、急ブレーキがかかり《付与魔法》で強化された脚でさえ、慣性の法則には敵わず、転げてしまう。

 

 体制を崩してしまう僕に、

「なんなんだよ、てめえは!」

 転倒を免れたひったくり犯はすぐさま馬乗りになってくる。


 さて、どうやってこの最悪のスタートを乗り切ろうか。

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