第19話

《質量残像》

 実体を持つ分身。

 僕はこの魔法を行使して


 目的は情報収集。

 伯父に騙し取られた財産を回収するためだ。

 正規の手順を踏むにしても淡々と事を進めていくだけなら《導の魔眼》を行使すれば事足りる。けれど純粋に現実世界の法律に興味が出ていた。


 異世界にも、社会秩序を保ち、住民の生活を豊かにすることを目的に法律――《魔法律》がある。

《魔法律》には歴史が内包されていて、僕は師匠に叩き込まれていた。


 それ故に転生前は全くと言っていいほど興味がなかった法律を勉強してみたい気持ちになっている。

 とはいえ、暗記すべきことは膨大。司法試験が最難関に分類されている現実は伊達じゃない。

 だから僕はいけないことだと思いながらもズルをすることにした。


 知的好奇心は満たしたい。けれどできる限り時間と労力は最小限にしたい。

 堕落を体現したような欲求を叶えるため、魔法で実体のある分身を作り、図書館や書店に散らばらせたわけだ。


 分身と一口に言っても、本来は実態のないものがオーソドックス。立体映像ホログラムと言い換えていいかもしれない。

 だけどその上位互換として実体がある分身魔法がある。

 それが《質量残像》だ。


 実態のない分身が見聞きした情報は、オリジナルに還元されない。

 けれど実体を持つ分身なら魔法を解いた瞬間に、その記憶と五感情報がオリジナルに統一される。すなわち学習スピードが単純計算で倍になるということ。


 さらに僕は《質量残像》の全員に《付与魔法》を発動する。


 まずは《瞬読》と《完全記憶能力》、さらに欠如している知識を知らせてくれる《無知の知》、さらに文字を追うだけではどうしても分からない引っ掛かりを説いてくれる《理解補助》の四つ。


 魔法を解除したときに《質量残像》が何も理解できず、記憶していないようじゃ話にならない。

 そして極め付けが、《認識歪曲わいきょく》だ。


 言うまでもなく《質量残像》を同じ目的地に向かわせるようなことはしないけれど、至るところに設置されている監視カメラや目撃情報を掻い潜るには認知を歪ませる必要がある。


 魔法が行使できることが秘密である以上、佐久間龍之介が複数人いた、なんて物的証拠を残すわけにはいかないからね。


《認識歪曲》は他人とは認識できるのに、顔や声、個人を特定できるような情報を思い出そうとするともやがかかったように認知できなくなる瞳術、幻術系の魔法だ。


 要らぬ混乱を招かないように念には念を入れさせてもらった。

 というわけでいざ出陣。

 今日の目標は法律上、自分がどのような立場にいるのかを正確に把握することだ。伯父は税理士と司法試験に合格した、ある意味その分野の猛者だ。

 

 財産をギャンブルと女性に溶かしていることは《導の魔眼》を行使した僕だけが知り得ている情報。

、伯父が提示した書類に承諾した手前、、嫌な予感がしていた。


 その辺りを確かめたい。

 場合によっては正当な手順選択肢から外すかもしれない。

 

 本当なら自室のベッドでくつろぎながらラーニングの時を待っていてもいいんだけど。

 オリジナルの僕にも予定がありまして。

 

 実はドラマ撮影中の鳴川さんに呼び出されていた。

 うーん。差し入れは何がいいんだろう?

 というか、ドラマ撮影の合間に邪魔をしていいんだろうか?

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