第18話
下山の途中、人目を盗んで立入禁止区域に逸れた僕は実験するつもりでいた。
その名も《錬金術》
男子諸君なら説明するまでもなく知っていると思う。
なにせ転生前の僕でも知っていたぐらいなんだから。
けれど異世界で目にしたこの術は想像と違っていた。
そもそも錬金術は卑金属から貴金属の精錬を試みること。
古代より天賦の才を持つ者たちがその知恵を存分に発揮した結果――《等価交換》には逆らえない、という世界の真理に至った。
故に僕が転生した世界でも《錬金術》は物質の理解、分解、再構築を原則としていた。
けれどあちらは異世界。
あらゆる法則など、魔法という異次元の前には
異世界であれば術者の《
「よし! こんなもんかな」
僕は地面に魔法陣を敷き、体内の魔力を熾す。
脳内で石ころの特性を理解、化学式を展開し、分解作業に入る。
そして再構築時に《魔力》を媒体にして、精錬に必要である物質に変化、構築式に織り交ぜていく。
すると、
――バチバチッ!!!
魔方陣から紫電と轟音が鳴り響く。
ただの石ころが分解され、やがて別の物質へと構築を始める。
数秒程度の術により、それは金塊と化していた。
まごうことない出来栄え。
本当は嬉しいはずなんだけど……。
「ええっ……まさか
どちらかと言えば困惑の方が大きかった。
これから僕は伯父と闘争するつもり。
ただし、正当な手順を踏むとなれば、それ相応の出費が必要になるだけでなく、時間もかかると踏んでいた。
その辺りはこれからある場所で魔法を行使して調査するつもりではいるけれど、こうもあっさり資産を得られてしまうと……なんというか決意が揺らいでしまう。
まあ、父さんたちの財産を奪われたまま許すつもりはさらさらないんだけどさ。
嬉しいような、悲しような気分になっていると、微風で広告用紙が僕の足元に飛んでくる。
それを目にした瞬間、僕は世界の外側から一斉に期待されている気がした。
石ころは金塊に錬成可能。だったら紙を錬成すれば何が出来上がるんだ――って。
広告用紙を拾って魔法陣の上に設置。
再び《錬金術》を発動する。
バチバチと紫電と轟音を発しながら、物質が分解され、再構築されるとそこには――。
「あかん。これはあかんで工藤」
おもわず関西弁で呟いてしまう僕。
だってそこにあったのは福沢諭吉が描かれた札だったんだから。
僕は急いで再錬成。金塊を石ころに、万札を広告用紙に戻す。
……これは最終手段にしよう。
当然だけれど経済的混乱を招く錬成は禁止されていた。法を犯せば術師としての資格を剥奪されるだけでなく、大罪人として指名手配にまで至るほどだ。
異世界の錬金術は物理や化学法則を無視できるものの、魔力を媒体にすれば再構築された物質に《魔力残滓》が残る。
魔眼という世界の真理に迫る存在がありながら、その目を掻い潜ることなどできるはずもなく。錬金術の悪用はほぼ不可能だった。
けど現実世界には当然《魔力残滓》を感じ取れる人間なんて僕以外いるわけがない。
この現実は偽札さえ本物になってしまうということだ。
魔法がこちらの世界で存在していないことになっている以上、当然、法整備だってされていない。
つまり僕はある意味合法的に紙幣を編み出せる存在になってしまった。
「……試さなきゃよかったかな?」
とにかく、この問題を熟考するのは後にしよう。
裁判費用を用意するかどうかは、全てこの後の予定次第だしね。
僕は何も見なかったつもりで、図書館へと向かうことにした。
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