第2話
昔は可愛かったのにな。
ソファでくつろぐ妹――舞を見て思う。
校則を無視した短いスカートからは肉付きのいい脚が伸びている。
今はゲラゲラ笑いながら友達と楽しそうに会話していた。
舞は両親が死んでからというもの、僕に対する態度を硬化させた。
父さんと母さんの財産を親戚に奪い取られてしまったからだ。
世間体を気にして学費と家賃は払ってくれているけど、娯楽費は一切なし。
貧しい生活をしなければいけないことに舞は強い不満を持っている。
気持ちは痛いほどわかるよ? 化粧やオシャレに一番お金をかけたい時期だもんね。周りの友達にとっての当たり前も舞にとっては贅沢。惨めにならないわけがない。
だから僕はアルバイトで必死に稼いだお金を舞に回していた。
騙されたのは僕の責任だからだ。
けど、
「……何?」
「あっ、いや別になんでもないよ。ただスカートが皺になっちゃうから心配で」
何気なく見つめていた僕に冷たい声と視線を飛ばす舞。
余談だけれど家事は全て僕の担当だ。
「あのさー」
「うん? 何かな」
「来月ちょっと欲しいものがあるんだけどお小遣い増やせない?」
「えっ、それは……ちなみにいくらぐらい?」
今月もギリギリだ。三井くんに一万円を渡す約束もある。当然だけど余裕なんてないわけで。
ちなみに舞は僕が三井くんにお金を渡していることを知らない。
「二万円あれば十分かな」
「いや、そんな大金は……」
「はぁ⁉︎ 私が惨めな生活をしているのはお兄ちゃんがお父さんたちの財産を詐欺られたからじゃん! 二万円ぐらいなんとか用意してよ!」
「でも来月はテストもあるし、これ以上シフトを増やしたら勉強時間が――」
「――だったらお兄ちゃんが死ねばよかったのに!」
「えっ?」
一瞬何を言われたのか理解できずに頭が真っ白になる僕。
死ねばよかった? 僕が? それも面と向かって妹から言われたの?
「だってそうじゃん。お母さんたちはお兄ちゃんを迎えに行って交通事故にあったんだよ⁉︎ あのとき命を落としたのが二人じゃなくてあんただったら、こんな生活を送らずに済んだのに!」
「それは……」
それは台風が近づく夜のこと。
終電を逃した僕を迎えに来る途中、両親は大型トラックに衝突されてしまった。
しかも轢き逃げ。証拠は暴風に流されたせいで、犯人は逮捕されていないまま。時効もすぐそこだ。
「これ以上、私を惨めにさせないでよ!」
舞は激昂して自室に戻っていく。
僕にはずっと目を背けてきたことがある。妹が僕のことをどう思っているかだ。
やっぱり妹は僕を疫病神としか考えていないんだ……。
その現実に悲しくて涙が溢れてくる。
……僕だってずっと辛いのに頑張ってきたんだ。
なのにどうしてこんな目に遭わなきゃいけないんだよ!
僕は玄関を飛び出して当て所もなく夜の街を走る。
周囲を注意せずに飛び出した僕は車が迫っていることに気が付けなかった。
こうして僕は死という極楽を手に入れた――はずだった。
⭐︎
その後、異世界転生にされて僕は魔王を討伐し、轢き殺された日に帰還。
異世界で過ごした三年間は現実世界にして一時間。
再び僕は現実世界に戻ってきてしまっていた。
異世界で取得した《異能》と一緒に。
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