大森林のダークエルフ
「ちっ、また来やがった」
奥深い森の上空を飛んで行く
無数の影。
いつもの煩わしい機械音。
その音を聞く度に神経が
逆撫でされるような気分になる。
六本の脚が付いた、
機械仕掛けの空を飛ぶ蜘蛛。
蜘蛛は八本足が多いらしいけど、
六本足だとしても、
その色や形状からして
どう見ても蜘蛛にしか見えない。
大長老様の話では、
これは『ドローン』と言う名の
別世界で造り出された機械らしい。
森の木陰に身を隠して、
上空を通って行く
あいつ等の数を数えようとしたけど、
あまりに多過ぎて、途中で諦めた。
あたしの名はストヤ。
尖った耳に、褐色の肌、
赤色の瞳を持った
ダークエルフと呼ばれる存在。
あたしは、森で生まれて、
森と一緒に育った。
この世界のすべての森が
あたしの故郷ってとこかな。
あたし達のようなダークエルフや、
エルフをはじめとして、
森と共に生きる種族はものすごく多い。
最近のあたし達は
毎日こうして
空を飛んでやって来る蜘蛛を
追っ払うのが仕事になっている。
あいつ等がばら撒いている
白い薬がこの森を
どんどん死へと追いやるからだ。
空を飛ぶ蜘蛛から散布される
白い薬が付着した木々は
やがて生気を失い枯れていく。
それもわずか数日でだ。
森だけじゃなく、
あたし達だってアレが掛かると
目が痛く、苦しくなる。
酷くなれば、もちろん死ぬ。
大長老様が、
魔王様から直接聞いた話では
あの薬は別世界の産物で
なんでも
「化学兵器」とか「枯葉剤」と
呼ばれているらしい。
森の木々や草花を枯らす為に
造られた薬だなんて、
別世界の人間がやることは
あたし達には到底理解出来ない。
これだって、別世界から来た
勇者の仕業だって言うじゃないか。
最近じゃあ、川や湖にまでも
大量の毒が撒かれていると言う……。
情勢は次第に悪くなる一方だ。
一度にあまりに広い範囲を
大量の数で飛ぶものだから、
あたし達だけでは対応するのが
難しくなって来ちまってる……。
それでも私は毎日
弓を引いて、矢を放ち、
時には魔法を使って、
あの空を飛ぶ蜘蛛を打ち落とす。
森はあたしの故郷だからね、
故郷を守る為にあたしは戦う……。
-
「ストヤ、
ここはもうダメだ、早く逃げよう」
あたしの双子の弟ソトヤが
そう言いながら、
こちらに向かって走って来た。
「森の南端に、黒い雨が降って
火がついて燃え広がっている……」
「ああ、大長老様が言ってた、
『ガソリン』とか『石油』ってのを使った
あの燃える雨のことかい?」
「そうだ、
水魔法や氷魔法を使っても、
火の勢いが強過ぎて
鎮火出来そうにもない」
「いずれここにも
火の手が回って来る」
「ちっ! クソっ!
ここはいい精霊がいる森だったのに」
こうして、
勇者のせいで森を追われるのも
これが初めてって訳じゃあない。
もう何度も森を追われ、
次々と森から森へと
渡り歩いて来たんだ。
燃え尽き、枯れた森は
いずれ砂漠化していっちまう。
その後、この森の
いや大森林の火災は
数か月に渡って
燃え広がり続けて行く。
森と共に生きて来た者達は
火を鎮める術もなく、
ただ逃げることしか出来なかった。
もうあたしにも、
他の仲間達と一緒に、次の森を探して、
移って行くことしか出来そうにない……。
勇者の魔の手が届かない
安住の地を探し求めて……。
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