終焉のはじまり

燃える雨

空から雨が降って来る。


まだポツンポツンと

滴が落ちて来る程度だが


これから本格的に

降りはじめるのだろうか?


最近、王都のヘルシティは

いろいろと物騒だから、

この地方都市に疎開して、

外出も極力控えていたというのに……


たまたま外に遠出した

こんな時に限って雨だなんて、

なんとも運が悪い。


雨が降ること事態が

珍しいこの世界では

傘を持ち歩いている者などはまずいない。


街の者達もみな一様に濡れている。



――雨というのは

こんなものだっただろうか?


濡れたところが

妙にベタベタして気持ち悪い。


それにさっきから妙な、

変な匂いもしている。



濡れた箇所を

触って確認してみると、

手には黒い滴がついていた。


なるほど、

空に舞った土埃やら砂塵やらが

雨に混じって落ちて来たということか。


最近はすっかり、

昔からは考えられないような

便利な世の中になったものだが、


これまでの生活から

大きく変わったことで

環境破壊という問題も

起こっているらしいじゃあないか。


この黒いベトベトした雨も

そういう影響を受けてのことか。



雨が本格的に降り出す前に

さっさと走って家に帰ろう。


これぐらいの雨だったら、

家に帰ってから、暖炉の前で

衣服を乾かす程度で済む、

たいしたこともないだろう。


そう思って自分は、

小走りに急いで

石畳の路地を走った。



「!!」


えっ!?


――向こうで誰かが燃えている。


いや、人型をした

常に炎を発火させているタイプの魔族か??


だがそれは一人ではない。


そちこちで街の住民達が燃えている。


火だるまになって

苦しみもがき、呻き声を上げながら。


家からも火の手が上がっており、

次々と街全体に燃え広がって行く。


一体何が起こっているのだっ!?

勇者によるテロかっ!?


頭の中は真っ白で

正常な思考が出来ない程に困惑していたが、


とりあえず、今

安全を確保する為にはどうすればいいのか、

それだけは分かった。


-


――ようやく、家に辿り着いた


まずはこれで一安心。


何故、あんな人体発火現象が?


状況がよく分からないが、

とりあえずは濡れた衣服を乾かそう。



暖炉に火を着けようとした時


突然、自分の濡れた上着が

燃えはじめる。


慌てふためいた自分は咄嗟に、

火が着いた上着を脱ぎ捨てる。


だが、火はすでに上着から

中に着ている衣服にまで燃え移っており、


それも脱ぎ捨て、


必死に何度も床を転げ回って、

背中に着いた火を

ようやく消すことが出来た。


火傷を負った背中が

激しくヒリヒリし、痛みがすごいが、


この状況では、

命が助かっただけでも

良しとしなくてはならないのだろう。


この家の床が木ではなく

石造りであったのは

不幸中の幸いでもあった。


「た、助かった……」



安堵したその瞬間。


外で火だるまになっていた男が

火を消そうと転げ回っているのか、

苦しさのあまりもがいているのか、


家の窓ガラスを割って

飛び込んで来た。


「たっ、頼むっ!

助けてっ! 助けてくれっ!」


火だるまの男は

手を伸ばして助けを求めて来る。


ばっ、馬鹿っ! やめろっ!

こっちに来るなっ!!



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る