魔将軍・ムザンニン
「ムザンニン将軍、
後方の支援部隊で病人が出ており、
到着予定日時には間に合わず
数日遅れそうだとのことです」
伝令からの報告を騎乗で受ける。
わずかな時間とて今は惜しい。
「うむ、そうか、
当面、進路変更の予定はない」
そう、今更、瑣末なことで
この道程を諦めることは許されないのだ。
我等の偉大なる魔王様、
そして親愛なる民のことを思えばこそ
この機会にこのまま
勇者を討ち取るより他に選択肢はない。
勇者の王都襲撃より、
王都民達の心は不安定となっている。
政権批判を繰り返す不届きな輩も
最近では目に余るようになって来た。
それ自体が
勇者の目論見なのかもしれぬ……。
だから、これ以上
負の連鎖が拡散する前に
諸悪の根源をここで断ち切る。
例えこれが、
勇者の罠であったとしてもだ……。
-
「よいか皆の者、
これより峡谷へと入る
勇者が罠を仕掛けている可能性は高い
くれぐれも心せよっ」
両岸が険しい崖になっているこの地形、
どうしても密集した
細長い陣形とならざるを得ない。
定石であれば、落石で道を塞ぐ、
もしくは圧倒的に優位に立てる
上からの攻撃なのだが……。
「!!」
最前より爆音が鳴り響く。
前方で爆煙と共に上がった土埃が
舞っているのが分かる。
早速、来たか!?
それからしばらくすると
また爆発音が聞こえ来る。
「将軍っ!
最前からの報告ですと、
地中に爆弾が埋まっているらしく
前に進めないとのことですっ!」
なるほど、これが
魔王様が仰っていた地雷というものか?
このように使うものなのか。
「ゴーレム隊を前へっ!」
-
「よいか、皆の者
先頭を行くゴーレムが通った道、
その後を外れることなく続いて行くのだ
道を外れれば爆発すると思え
くれぐれも心せよっ」
あれからもう
どれぐらい経っただろうか?
もう彼是、数刻以上は
延々と爆発音を聞いている。
ゴーレムの硬度であれば、
一度や二度の爆発は持ち堪える。
だが、やはりそれ以上となると
ヒビが入り動けなくなる。
もうすでに
ゴーレム部隊のほぼすべてを
交替で投入しているが……
この峡谷を過ぎるまで、
最後まで、持つのか?
-
なんとか、本隊は
峡谷を抜けることが出来たか……
ちょうどその時、
大爆音が耳をつん裂く。
「将軍っ!
峡谷が塞がれますっ!」
空気が震え、地響きと共に
両脇の崖が崩れて落ちる。
崩落する峡谷。
岩と土砂で、今来た道は
完全に塞がれた。
「退路を絶たれたかっ!」
となると、勇者の仕掛け、
その本命は砂漠エリアか……
いや退路だけではない
この後に続く予定だった
後方支援部隊もまた
行く手を遮られた……
兵站と補給の分断、
勇者の狙いはそれかっ!?
しかしだ、どうも妙だ
全員の移動が終わってから
峡谷を塞ぐのは……
途中で峡谷を爆破すれば
軍勢を分断、更に二分出来たというのに
この先に待ち構えているであろう
砂漠エリアの仕掛けに
余程の自信があるということなのか?
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