蚊に悩まされる野営

まったく、

クソみたいに酷い一日だった。


毒の水に、毒の霧、

どんだけ毒尽くしなんだよ。


まぁ、勇者ってのが

毒々しい野郎だってのはよく分かったぜ。


いろいろトラブルがあったお陰で

今夜は森の中で野営することになっちまった。



まぁ、でも今日も一日

よく生き残れたもんだ……。


見張りと火の番は交代制だしな。


俺もとりあえず

少し寝かせてもらうとするか。



プゥゥゥゥゥーーーーーン


……うーん?


プゥゥゥゥゥーーーーーン


……うるせえな


プゥゥゥゥゥーーーーーン


ああっ! なんだよっ!

さっきから人が寝てる耳元で


なんでか分からねえが、この辺を

ずっと小さい虫が飛んでやがる


蝿か? 蝿なのか?


イテッ


こいつ、なんかしやがったぞ


…………


なんだか妙に

かゆくなってきやがった


ペチンッ


うん? 潰したはいいが……


赤い血が出てるぞ?


もしかして、こいつ

俺の血を吸ってやがったのか?


ヴァンパイアの使い魔か何かか?


まさかこいつも

勇者の仕業だってんじゃあないだろうな?


敵の睡眠時間を削るのが目的か?


いやいやいや、

さすがにそこまで

地道なことはしないだろう


撹乱と言う戦法が

あるにはあるらしいが


とりあえず、俺は

貴重な睡眠時間を

この小さい奇妙な虫と

戦いながら過ごすことになる。



次の日、俺は

高熱を出してまったく動けない。


どうやら似たような症状の奴らが

他にも多数出ているらしい。


急遽近くの河原に

野戦病院の仮設テントが建てられ、

俺はそこに収容されることになった。


高熱のせいなのか、

頭が激しく痛い、苦しい、

寒気がして体が震える。


嘔吐、吐血、下痢、下血、

体中のほぼすべてに症状が出ている。


朦朧とする意識の中で、

俺はこのまま死ぬのだろうと感じていた。



従軍医師の話では、

原因はよく分からないが

この地域限定で存在する

風土病のようなものではないか

ということらしい。


だが俺の直感は、

違うと言っている。


昨晩のあの小さい虫、

あれが原因だという気がしてならない。


あいつが病原体を持っていて

病気を伝染させたに違いない。


あれも勇者の仕業なのか?


もしあんなものが

世界中にばら撒かれたら、

それこそこの世界は

滅んじまうんじゃないか?



仮設の野戦病院に

並んで寝かせられている

俺を含めた数十名の兵士達。


その中の一人が死んだ。


医師や看護師、

衛生兵に看取られながら。


次は俺なのかもしれない……。


そう思った矢先のこと。


死んだ筈の兵士は、

突然ガバッと起き上がり、

傍にいた衛生兵に襲い掛かった。


死んだ直後、そいつは

アンデッドとなって復活したのだ。


死んでいるのに復活というのも

おかしな話なんだが。


あまりに突然な不測の事態に

その場は騒然とし、

パニック状態に陥っていた。


襲われて噛み殺された衛生兵もまた

アンデッドとなって

正常な兵士達を襲いはじめる。


俺もあんなクソみたいな

アンデッドになっちまうってのか……


頼むっ!!

誰かその前に俺を殺してくれ

俺がアンデッドになる前に……


いや、どうせ今死んでも

もうアンデッドになるしかないのか



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る