勇者の生体実験場

後方支援部隊の兵士

目の前に広がる大森林。


目的地に辿り着く為には

ここを何日もかけて

行軍していかなくてはならない。


勇者が辺境にある田舎町

ヘルサテライトを占拠した。


その報せを受けて、

勇猛なるムザンニン将軍が

大軍勢を率いて

勇者討伐に出向くことになった訳だが。


どうもあそこは場所が悪い……。


経路にしたところで、

この森林の次、峡谷を抜けても、

最後に待っているのは広大な砂漠。


人間達が住む砂漠エリアのすぐ傍、

それぐらい辺境の田舎町ってことだ。


どのエリアも

罠を張る、トラップを仕掛けるには

もってこいの環境ばかり……。



当然、勇者の罠だと言う声もあったが、

例え、そうだとしても

軍としては行かなきゃならない。


世論が黙ってはいない。


王都襲撃で今や

民衆の反勇者感情は尋常ではない。

狂気的なものにまでなっている。


罠かもしれないと分かっていても

行かざるを得ないのが

軍の今の辛い立場だ。


まぁ、それでも、俺が所属する

こんな後方支援の兵站へいたん部隊なら

はるかに危険性は薄いだろう。


そう願っているよ。



「やれやれ、

やっとこれで水が飲めるぜ」


川辺で一旦休憩を取ることになり、

兵達はみな荷物を降ろし

気を緩めている。


「ここの川もまた美しいな」


基本的にこの世界の自然は

どこに行ってみても美しい。


綺麗な自然環境でなければ

生きられない種族も多いからな。


だから魔王様が

王都の建設用地を調達する際には

環境破壊だと反対した者もいたとか。


そいつがその後、

どうなったかは知らないが。



川の水を手ですくって

口に含もうとしてみたが、

なんだか嫌な匂いがする。


獣人である俺の鼻はよく効く。


「……なんだ?

この匂いは?」


他の者達はみな、気づかないのか、

川の水をゴクゴクと

飲んでしまっている。


「!!」


「飲むなっ!! 毒だっ!!」


だが時すでに遅し。


川の水を飲んだ者達が

次々と目の前で倒れて行く。


吐血し、体を痙攣させ、

目からも血を流している。


ダメだ、こりゃ、

到底助かりそうもない。



――これも、勇者の仕業なのか?


こんな場所の美しい川にまで

毒を流して飲めなくする、

はたしてそんなことまで

勇者はするのか?



森の中を進むに連れ、

霧が濃くなって来ている。


差し込む太陽光と相まって

神秘的で美しい、

最初はそんな呑気なことを思ってもいたが。


もうすでに視界不良で

前を歩く者の姿ですら

霧の中に居る影でしかない。


さすがに視認性が悪過ぎる、

こんな状況で敵襲があったら

それこそやばいな。


そう思っていたのだが、

ここでも斜め上を行く

予想外の出来事が起こった。



次第に嫌な匂いがして来る、

さっきと似たような……


俺の嫌な予感は見事に的中。


霧の中を進んでいる前方の影が

バタバタと倒れ込む。


「鼻と口をふさげっ!! 毒霧だっ!!」


クソッ、川に毒を流した次は

毒霧かよっ!?


毒能力の使い手なのかっ!? 勇者はっ!!


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