この世界の覇者
魔王が築き上げた王都・ヘルシティ。
この文明都市は今、
勇者によって蹂躙されていた。
民の命は、軽々しく空を舞い、
命の雨を降らせている。
そして、その屍すらも
勇者に弄ばれ、玩具にされている。
この国の、いやこの世界の
今一体何を思うのか。
–
ヘルシティの最深部にある魔王城。
そこから真っ直ぐに向かって来る
一筋の閃光。
その軌道からして、勇者の位置が
特定されているのは間違いない。
「インビジブル(透明化)を見破ったか
気配も完全に消していたのだが
……さすが魔王だな」
それが魔王であることが
勇者にはすぐ分かった。
これまで感じたことがないような
圧倒的な威圧感、プレッシャー。
発せられる桁違いのオーラ。
まさにこの世界の覇者に相応しい。
勇者は防御態勢に入る。
地上にまだ残っている有翼の魔族達を
『魅了』能力で周囲に集め、
幾層にも重ねた肉の盾を築く。
かってないほどの数で
完全に周囲を固めた。
魔王が射程距離内に入った所で、
勇者は超重力を使う。
超重力下に入った魔王は
一瞬ガクンと高度を落としたが、
すぐにまた急上昇して態勢を維持する。
「!?」
その動きに違和感を覚える勇者。
まったく効かないというよりは、
まるで途中で中和されたかのような。
そのままの飛行態勢から
今度は魔王が剣を振るう。
長距離の間合いをものともしない、
音速を超えるソニックムーブ。
そこには一切の
同胞が肉の盾という
人質にされているのにも関わらず。
勇者が何重にも魔族達を配置して
構えた肉の盾がすべて丸ごと
一刀両断、真っ二つに切り裂かれる。
魔王はそこで立ち止まった。
今の一撃で肉の盾ごと
勇者も真っ二つにした筈。
――手応えはあった
あの直撃ではいくら勇者と言えど、
無事では済まないだろう。
–
「いやぁ、まいった、まいった
瞬間移動の能力を解放していなければ、
今ので私も死んでいたな」
だが、勇者の姿は
魔王のはるか後方にあった。
「それにしても、さすが魔王だ
肉の盾と言う人質を前に一切の
微動だにせず、全員切り捨てるとは……
さすが、魔の王なだけはある」
魔王は手に持つ剣で
勇者を指し示す。
「勇者よ、
貴様が私のつくった社会を破壊し
力のみが支配する世界に
引き戻そうと言うのなら
私とて、それ相応の準備はあるのだ」
「これは…… まだ今の私には
魔王を倒すだけの力はないということか」
勇者は意外にもあっさり
今回の負けを認めた。
魔王との、現時点での
力量差が分かっただけでも
充分収穫はあったということか。
「とりあえず、
今日のところは挨拶代わりだ
だが、この王都の民、
その命はいつでも
我が手にあることをお忘れなく
私はいくらでも奇襲が出来るが、
あなたは守らなくてはならない
立場なのだからね」
実際のところ、後先を考えなければ、
今回のような奇襲で
王都の民を大量虐殺することは
勇者にとって容易いことだろう。
魔王には守らなくてはならないものがあるが、
勇者には何も無い。
自分の命をどう思っているのか、
それすらも定かではない。
–
「おっと、そうだ
些細なことではあるが……
あなたは、人間世界の出身かな?」
その言葉に一瞬動揺する魔王を
勇者は見逃さなかった。
「さすがに、中世風の異世界が、
十年も経たずに
このような文明社会に
舵を切るというのは無理がある
例えるなら、中世の時代から
いきなり昭和初期になったような
隔世の感、違和感だ……
なる程な、やはりそうか」
勇者はそれで合点がいった。
勇者が使った超重力、
魔王はそれに耐えたという訳ではない。
魔王もまた同様に
重力制御能力で空を飛んでいる為、
緩和する方法を知っていたのだ。
つまり、人間世界における重力の概念を
理解している者ということになる。
魔王がかって
人間世界の者であったのならば、
勇者の中ですべて辻褄が合う。
「では、また会おう、魔王殿」
勇者はそう言い残すと、
再び瞬間移動で姿を消した。
–
次のことを考えて、
勇者はそのまま一旦、
ヘルシティを後にする。
「今の私では
圧倒的に攻撃力が足りないか……
やはり、幾多もの異世界を滅ぼしたという
『
禁忌の能力を、なんとしてでも解放せねば……」
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