勝手に増え続ける戦力

「おっ、おいっ、

あれっ、……動いてないか?」


誰かがそう言って、

地面に叩き付けられて

飛び散った肉片を指差した。


「おいおい、いくらなんでも

そんなことはないだろう……」


周囲の者達はそう言って

指差す方に目線をやったが、

みな一斉に顔が青ざめた。


血にまみれた肉片がピクピクと

跳ねるようにして動いている。


-


勇者降臨の絶望的な状況、

恐怖のあまりに魔族達は逃げ惑う。


走っている男が、

足に何かを引っ掛けて、躓き転ぶ。


「うわぁぁぁぁあっ」


男が目をやると

横に転がっている血まみれのしかばね

自分の足を掴んでいた。


偶然足に絡まったのであろうと、

何度もふりほどこうとする男だったが、

屍の手はふりほどけない。


やがてその屍は

体を小刻みにゆらしはじめ、

呻き声をあげながら、

ついに上半身まで起こす。


脳髄をぶちまけ、

目玉が飛び出し、

内臓をまき散らし、

体中の至る所の骨が、

本来曲がる筈のない方向にひん曲がっている。


「うわぁぁぁぁあっ」


男は必死に逃げようとするが、

屍は呻きながらそのまま立ち上がり、

男に襲い掛かった。



至るところで同様の光景が広がって行く。


高所から落下して損傷著しい屍。


下半身が無くなった屍は、

手を使って地面を這いずり回る。


千切れた腕だけ、足だけ、

原型を留めていない

肉片までもが動きはじめ、

王都民達に襲い掛かる。


ソンビやアンデッドを

比較的見慣れている

魔族ですらも動揺を隠せない。


-


「君達の仲間がね、

ネクロマンサーの勇者だって

私に向かって言ったんだよ


なんてこと言うんだっ!!


とんでもなく素晴らしいじゃないかっ!!


早速ね、採用させてもらったよ

今は亡き、彼の意見を」


勇者は『死霊使い』の能力を発動させていた。


通常であればもちろん

勇者が使うような能力ではないが、


転生管理センターに保管されている

すべての能力を自らにインストールした

この勇者に限っては、

使用出来ない能力はほぼない。


Lv.制限が解放されれば、

いずれすべての能力が

使えるようになるだろう。


それは神々が持つ力にも等しい。



地上で逃げる魔族の男は、

行く手を遮る屍を

次々と叩きのめす。


だが、血まみれの屍どもは、

倒れても倒れても立ち上がる。

何度でも立ち上がる。

気味の悪い呻き声をあげながら。


倒れても倒れても立ち上がる屍に

徐々に後ずさりをはじめる男。


だが、後ろにも横にも屍がおり、

周りをすべて囲まれる。


ついには、屍の群れに捕まり、

がんじがらめにされ、首をへし折られた。


そして、絶命した男もまた

屍となって動き出す。



「これの何が

素晴らしいかと言えば


それまでの敵味方に関わらず、

死んでしまったらみんな

私の戦力になってくれるってことだ


つまり、ここ王都民の死者が

増えれば増える程、

私の戦力は増強されて行くのだよ


しかもオートで、勝手にだ」


確かにこの方法であれば、

勇者の手駒は勝手に増え続ける。


そして、勇者の理屈で言うなら

王都の死者が半数を超えれば、

もうそれは、勇者の戦力の方が

多いということになる。


「そうそう、それと

彼等は勇者がつくった

特製アンデッドだからね


通常のとは一味違うよ


回復効果も混ぜてあるから

いつも以上に不死身なんじゃあないかな」



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