勝手にはじめられたゲーム

「素晴らしい


自己犠牲を厭わず、

ここに暮らす仲間達を

助けようとするその姿勢


まるで王都民の鏡のようじゃあないか」


有翼種をはじめとする

落下する命を助けようとした者達に向かって

勇者の声が語り掛ける。


「どうだい?

一つゲームをしないか?


また王都民達には空を飛んでもらうから

今度も助けてご覧よ?


もし君達が三人以上

助けることが出来たのなら


私も大人しく引き下がろうじゃあないか」


先程、助けられたのは数名ではあったが、

それは突然の出来事に

咄嗟に反応してのこと。


反応出来ずに居た

有翼種達も大勢いただろう。


事前に落下すると分かっていたのなら、

もっと多くの者達を救える筈。


そう、何よりも

ワザワザ落下をはじめるまで待たなくても

空に浮いている間に助けてしまえばいい。


勇者はそこのルールについては

何も触れていないのだから。


そして、何よりも今の彼等には

この提案に乗る以外には選択肢はなかった。



「返事はまだ無いようだが、

勝手にゲームをはじめさせてもらおうか」


空高くへと連れ去られる王都民達。


その数はやはり数百名といったところか。


背中に羽根を持つ者、

魔法で空を飛べる者達が

次々と地を蹴り、空へと駆け上がる。


空を切り裂くような全速力で

彼等は空に浮く仲間達の体を

しっかりと掴み、受け止めた。


このままで行けば、三人どころか

すべての者達を助けられるのではないか。


地上から見上げる者達は

固唾を飲んで見守った。


「素晴らしい


まだまだ、

君達のような魔族もいるんだねえ


このままいけば

全員助けられるんじゃあないか?」


勇者の声は笑っている。

まるで必死の努力が

無駄だと言わんばかりに。



次の瞬間、

空に居る者達のすべてが

地面に叩きつけられる。


それは、刹那と言っていいぐらいに

わずかな時間だった。


まるで、超強力な磁石が引かれ合い

一瞬でくっつくかのように。


それぐらいの勢いで

空に居たすべての命が

大地に激突したのだ。


自然な落下速度とは到底思えない。


そう、勇者は

自然の法則を操作していた。



今、勇者はインビジブルと化して

高空を浮いている。


それで誰の目にも見えることはない。


空に浮いているのは

『重力操作』の能力を使っているからであり、


多くの魔族達を宙に浮かせることが出来たのも

その能力を広範囲に使ったからに他ならない。


――逆もまた然り。


強烈な超重力を下方に

広範囲に掛けることにより、


空に居た魔族達を一瞬で

地面に叩きつけたのだった。


落ちると言うよりは

もはや押し潰されるのに近い。


「あぁ、残念だったねえ


まさか参加者までも

全員死んでしまうとは

思ってもみなかったよ」



「でも、まだまだ

これで終わりじゃあないよ


君達のご先祖様は

地獄の出身なのかな?


その辺に詳しくないので

申し訳ないんだがね


これぐらいで地獄だと言ったら

君達のご先祖様に怒られてしまうからね」


「本当の地獄は、

まだまだこれからだよ……」



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