デモンストレーションと暴徒
『子供の命が大事』
そう書かれたプラカードを掲げ、
ヘルシティ内を行進して歩く群衆。
彼等を扇動しているのは、
帽子を目深に被った
尖った形状の耳をしている男。
連日の爆破テロ事件により、
溜まりに溜まった民衆の不満は
徐々に表面化して行きつつある。
最初は単なるデモ行進に過ぎなかった。
-
――もう何度この音を聞いただろう?
爆発音が鳴り響く度に、
誰しもがそう思った。
ヘルシティに住む者達にとって
恐怖、そして悲しみと痛みの音。
爆発音と共に、
崩落をはじめる建物。
学校にもなっているこの施設には
まだ年端もいかない
幼い子供達が沢山居るというのに。
悲痛な子供達の叫び。
「おいっ! 犯人がいたぞっ!」
「勇者だっ!
勇者が魔族になりすまして
爆破テロを行っていたんだっ!」
現場で、そう大声で叫んでいるのは
誰あろう勇者本人である。
自らの姿は透明化で隠しつつ、
大声で叫ぶのみ。
これまでに勇者が仕組んだ爆破テロ、
その冤罪で捕まった魔族の者達は
十数人を下らないだろう。
そして、
冤罪の濡れ衣を着せられた全員は等しく、
目の前で凄惨な光景を見せつけられ
感情的になった傍観者達によって、
その場で
いくら文明があるとは言っても、
そこはやはり異世界の魔族達であり、
現状十分な法整備などが
なされている筈もなかった。
終戦記念日に
セントラルパークで起きた爆破テロ。
あの日以来、ヘルシティでは
連日爆破テロが発生していた。
住民達は、不安に怯え、不満を募らせ
ストレスに晒されながら、
暮らさなくてはならない日々。
そんな彼等をあざ笑うかのように、
より一層ヒステリックになりそうな
子供や女性といった力弱き者達をわざと狙って
爆破テロを起こす勇者。
終戦記念日に爆破テロを行ったのも
魔族達の感情を逆撫でする為に他ならなかった。
−
連日のように行われる
デモンストレーション。
それは、連続爆破テロの早期解決を
現政権に求めているだけの筈であった。
だが、近衛兵団は
それを魔王への批判と捉え、
武力で威嚇し、これを鎮圧しはじめる。
デモ隊と近衛兵団は
小競り合いを繰り返し、
各地で暴動が起こるようになり、
暴力は瞬く間に伝播して行った。
その結果として、
まったく関係がないところで
暴徒が略奪と破壊を繰り広げ、
軍が出動する事態にまで発展した。
そんな彼等の様子を
勇者はあざ笑う。
今はこの陰鬱な空気を醸成させ、
魔族達を疑心暗鬼にさせる、
それが目的の一つでもあった。
「もう少しで
爆破テロで殺して稼いだ経験値がたまって
新しい能力が使えるようになるだろう
これでようやく魔王と
本格的に戦争をはじめることが出来る
それまではせいぜい仲間同士で
イザコザでも起こしていてくれ」
本来はデモ隊であった者達が、
軍と小競り合いを起こして、
その結果、今では単なる暴徒と化している。
いくら文明社会で暮らしていると言っても
魔族はやはり魔族であり、
その闘争本能までは抑えきれないのか。
「文明社会に住む知的生命体が、
ただの蛮族へと成り下がり
堕ちて行くというのは、
やはり見ていてゾクゾクするものだな」
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