終戦記念日フェスティバル

王都ヘルシティ、

その中央に位置する『魔王セントラルパーク』。


終戦記念日である今日は、

大勢の魔族達が

セントラルパークに繰り出している。


人間達との長きに渡った戦い、

その終焉と勝利を祝う

フェスティバルが開催される、

それがここ何年も通例となっていた。


セントラルパークから

環状に広がる多くの街路には、

飲食の屋台や露店が並び、

今日はどこも魔族達で溢れ返っている。



混雑している街路を歩いて

セントラルパークへと向かう

ミノタウロスとリザードマン。


ミノタウロスの体が

前方から歩いて来た

一人の男の肩とぶつかる。


男は帽子を目深に被っており、

まったく顔は見えない。


耳が尖っているところからして

エルフか何かの種族だろうか。


そのまま通り過ぎようとする男の肩を

ミノタウロスはいきなり掴んだ。


「なんだてめぇっ!


ぶつかっておいて

詫びの一つもねえのかよっ!?」


「……すいません」


「謝るときは、

帽子ぐらい取れやっ!」


腹を立てているミノタウロスが、

男の帽子を手で払い飛ばすと、

焼け爛れた男の顔が露出される。


顔の皮はずる剥け、鼻も無く、

もはや原型すらも留めていない。


耳が尖っているので辛うじて

エルフかなにかの種族だろう、

そう思わせる程度。


ゾンビと見間違えそうな

その不気味な顔を見たミノタウロスは

明らかに顔をしかめた。


「なんだよ、

傷痍しょうい軍人かよ……」


ここ王都が文明的で平和な都市と言えど、

人間との大戦による傷跡は

まだ完全に癒えてはいない。


大きな傷跡を残した者達も

まだまだ多い。


「チッ……

気をつけろよ」


バツが悪そうに

その場を去って行く二人組み。


帽子を広い上げ、

再び目深に被る男。


その口角は

少しだけ吊り上っていた。



「そういや、あいつ

さっきも誰かとぶつかってたな


顔の傷が原因で

目の遠近感がおかしいんじゃないかな」


「それだったら

ちょっと言い過ぎちまったかな」


そんな会話をしながら

ミノタウロスとリザードマンは

気に留めることもなく

セントラルパークへと向かう。



セントラルパークで行われるイベントには、

すでに数万以上の魔族達が集まっていた。


イベントは大層な盛り上がりで、

会場は異様な熱気に包まれており


拳を天に突き出し、声を上げて叫び、

みながみな、極度の興奮状態。


会場のボルテージが

最高潮に達したその時。


「魔王様っ!! 万歳っ!!」


そう叫んだ、

先程のミノタウロスの体が吹き飛んだ。


爆音を上げて、

周囲の者達を多数巻き込み

爆散したのだ。


その場にいる魔族達は

興奮状態のまま阿鼻叫喚する。


パニックに陥った者達は

我先にと逃げようとしたが、

爆発は一度だけでは済まなかった。


会場のそちこちで

幾度となく爆音が起こり、

その都度、広範囲に

魔族達の肉体が宙を舞う。


肉片と化している者もいれば、

一部欠損している者達もいる。


会場はまさしく

阿鼻叫喚の地獄絵図と化した……。



「なるほどな、

これが新しい能力の一つか……


物質だけではなく

人間や魔族達などの生物、


触れたものすべてに

超小型爆弾を埋め込む


『爆弾化』の能力……」


先程の、顔に火傷を負った男は、

そう呟くと、そのまま忽然と姿を消した。


勇者のインビジル(透明化)能力。


勇者は、他の新たな能力である

『なりすまし』を試す為に、

負傷した魔族のフリをしていたのだ。


新しい能力を得た勇者のテロ活動が

いよいよ本格的にはじまろうとしている……。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る