王都、ヘルシティ
連続猟奇殺害事件・切り裂きジャック
ここ王都ヘルシティには、
数百万を越える魔族達が平穏に暮らしている。
人間達との戦いに勝利した魔王軍が国を造り、
その首都とした文明的な都市、
それがヘルシティだ。
俺は、この街で暮らし
王都新聞の記者をしている人狼。
今、平和なこの街にも
不穏な空気が流れている。
何かよからぬ巨大な力が
この街の平和を乱そうとしている。
これは人狼としての嗅覚と
新聞記者としての勘が
俺にそう告げているのだ。
勇者降臨の噂で怯える王都民達を
更に不安と恐怖に陥れている
連続猟奇殺害事件が、おそらくそれだ。
すでに被害者は三十六名にも上る。
被害者達には、
性別や種族による偏りは見られない、
まぁ、つまり見境なくってことだ。
全員Lv.が高いなんて噂もあるが、
こんな平和な世の中で
Lv.なんか判別出来る奴なんざ
居る訳がないんだから、
どうせ眉唾もの、
単なる噂に過ぎないだろう。
遺体はいずれも
見るも無残に切り裂かれており、
猟奇的な変質者の仕業という線が濃厚だ。
誰が言い出したかは分からないが、
その犯人を都民達は
『切り裂きジャック』と呼び、
まるで都市伝説のように扱いはじめてる。
それも俺にはどうも引っ掛かる。
『切り裂きジャック』という呼び名は
どこかの異世界にあった
似たような事件から付けられたらしいが、
なんで違う世界の呼び名なんだ?
誰が最初に言いはじめたんだ?
‐
その後も聞き込みを続けたが、
決定的な有力情報は得られないまま。
推定死亡時刻頃に
犯行現場付近で金色の光を見たとか、
そんな情報もあったが
きっと誰かが
魔法の練習でもしてたんじゃねえかな。
しかしまぁ、
『切り裂きジャック』の噂が広まってから
街の連中はすっかり
夜に出歩かなくなっちまったな。
今だってこんな街中だってのに、
外を歩いているのは俺一人きりだ。
いくら夜だからって、
以前ならそれなりに
魔族も出歩いてたんだがなぁ。
それにしても、なんだか今日は
やけに冷え込むな、
背筋がゾクゾクしやがるぜ。
悪寒が走るってやつか?
こりゃ風邪でも引いたかな。
周囲には人がいないんだがな、
誰かに見られているような……
匂いもしねえし、気のせいかな。
!!
な、なんだ、
急に胸が、胸が、
焼け付く様に、熱い
な、なんだ、こりゃ!?
血じゃねえかっ!?
ダメだ、クソッ、
立ってられねえ……
「ようやく、そろそろ
次のランクの能力が使えそうだな」
朦朧とする意識の中で
誰かの声が聞こえて来る……。
微かに目を開けると、
誰もいない筈の空間が
薄っすら黄金色に輝いていた。
陰影で微かに何かが見える。
――人? 人間、なのか?
「インビジブル(透明化)で
Lv.が高い獲物に近寄って
背後から剣で一突きだから、
楽と言えば楽だったが……
それを何十回も繰り返すとなると……
Lv.上げというのも
なかなか面倒なのもだな」
何かとんでもない怪物が
この街の闇に潜んでいる……
そして今にも動き出そうとしている……
誰かに、誰かに
このことを伝えなくては……
微かに動く指先で
血のダイイングメッセージを……。
「お前、まだ生きてたのか?
さっき、そのまま死んでた方が楽だったぞ?
連続猟奇殺害事件に見せ掛ける為に、
いつもワザワザ
死体を八つ裂きにしているんだからな……」
「!!」
……………………。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます