勇者狩り

「勇者を許すなっ!!」

「勇者を殺せっ!!」


「まっ、待ってくれっ!」


「お、俺は、

勇者の仲間なんかじゃあないっ!!」


「これは何かの間違いだっ!!

濡れ衣だっ!」


最初に爆破テロが起こった

『魔王セントラルパーク』は

その後、悲劇の象徴となり


そして更なる悲劇を生み出して行く。


勇者に内通している、

そう容疑を掛けられた者達が、

公開処刑の火炙りにされる場所、

それが今のセントラルパーク。


その中央には円状に

十本の柱が立てられており


今晩火炙りの刑に処されることに

決まっている容疑者達が

それぞれの柱に縛り付けられている。


広場に集まった民衆達は、

柱に縛られた容疑者達に

次々と石を投げつける。


司法制度も

まともな裁判も無いような世界、

疑われたら、容疑を掛けられた時点で、

ほぼ負け、火炙りは決まったようなもの。


誰が勇者の内通者なのか?


疑心暗鬼となっている魔族達は、

互いが互いを監視し、

疑わしい者が居ればすぐに密告する


むしろ自分が疑われる前に

我先にと他者を密告する


完全な密告社会へと成り果てていた。


逆にそれを利用し、

政敵や商売仇、恋のライバル、

そうした自分にとって邪魔な存在に

濡れ衣を着せる者達も少なくはない。



「や、やめろっ! やめてくれっ!!

俺は勇者なんて知らないんだっ!!」


夜になると、処刑場には

大勢の魔族達が押し掛けて、

罪人達が火炙りにされる瞬間を

興奮しながら待ち侘びている。


こちらの方が本来あるべき

魔族の姿なのであろうか。


容疑者達が括り付けられた柱、

その根元に集められた焚き木に

火が掛けられる。


火は瞬く間に燃え広がり、

やがて十本の柱へと燃え移って行く。


「俺は無実だっ! 俺は無実だっ!」


そう叫びながら

燃え盛る炎に吞み込まれて行く

十名の容疑者達。



その様を公園の片隅から

ほくそ笑んで眺めている透明勇者。


爆破テロの犯人が

勇者であることを吹聴し


このヘルシティの中に

勇者の爆破テロに協力している

魔族の内通者が居る


そう広めたのもすべて

勇者が仕組んだことでもあった。


『魅了』能力を使い、瞬間的に操って、

そうした伝聞を広めるのは容易いこと。


そんな回りくどいことをするよりも、

今回も『魅了』能力で

互いを殺し合わせた方が

効率的かつ効果的ではあったが


今回のこうした陰湿なやり口こそが

この勇者の本質でもあるのだ。



以前口から漏れた言葉を

勇者は再び口にする。


「文明社会に住む知的生命体が、

ただの蛮族へと成り下がり

堕ちて行くというのは、

やはり見ていてゾクゾクするものだな……


ここまで簡単に墜ちるとは、

やはり魔族は魔族か……


さて、あの能力達も手に入ったことだし


そろそろ魔王との戦争をはじめようか……」



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