第14話

 翌朝、俺はいつものように家を出る。

 だけど隣の家のドアが開くことがなかった。


「もう先行ってるのかな、少しだけ待ってみるか」


 数分の間待ってみたものの、結局開くことはなく俺は一人で学校に向かった。




 ☆





 学校に着いた俺は上履きに変えて、階段を上がろうとした時だった。

 僅かながらだけど、結希の姿が見えた。


「……結希?」


 遠すぎたせいで表情までは見えなかったけど、確かあいつは俺を待っていたように見えた。




 ☆





 教室に入るといつものように出迎えてくれる結希の声はなく、少し寂しい想いをしながら自分の席につく。


「藤崎おはよ、珍しいね結希と一緒じゃないなんて」


「……まあな」


 結希の親友の渡辺が俺に話し掛けてきた。

 渡辺も渡辺で普段と様子がおかしい、まあおかしいのは俺達二人だけど。


「あんた達、喧嘩でもした?」


「……少なくともそれはない……と思う」


「はっきりしない言い方ね……」


 本気でわかんねえんだよ、なんで結希があの時怒ってからずっと避けられてるのか。

 だけど今日分かったことは、少なくとも嫌われてはいないということだけ。


「……ねえ藤崎、今日の放課後って一人?」


「結希があの調子なら多分一人」


「そっか、じゃあまた放課後に声掛けるわ」


 と言い残して、渡辺は自分の席へと戻っていった。

 その時ふと結希と目があった、けどすぐにそっぽ向かれる。


「……心がしんどい」


 俺は机に倒れ込んで、昨日の事を思い返していた。





 ☆





 俺には結希のような昔馴染みは他に居なくて、友達だって居ない。

 その為、俺は珍しく一人だった。


 一人寂しく学校の食堂で昼食を取っていると、不意に声を掛けられた。


「あの……隣良いですか?」


 声がする方へ顔を向けると、一人の女の子がいた。


「良いですよ、他に行くとこがなければ」


 その女の子は俺の隣に座り、小さな弁当箱を開けた。

 色とりどりのおかずにたまご味のふりかけがかかった白飯、よく見るような弁当だったけど、物凄く美味しそうな感じがした。


「それ一人で……?」


「……いえ、母が」


「凄いね、俺は残り物でやっちゃうから」


 よく見るとこの子は下級生だった、上履きの色で判別出来るようになっている。

 俺は二年だから青、三年は緑で一年は赤、その為この子は一年生にあたる。


「先輩、料理出来るんですか……?」


「まあ、うん……親が忙しいから自然と」


 両親共働きのため一人で料理することが多い、たまに結希の家で作ることもある。


「えっと……失礼でお聞きしますが、お名前は?」


「二年二組の藤崎尚輝、部活とかは今は入ってないよ」


「えっと私は植田香菜と言います、一年三組です……私の事はその、香菜って呼んでください」


 い、いきなり呼び捨てはちょっと気が引ける……。


「流石に呼び捨てはちょっと……植田で良いかな……?」


「はい、宜しくお願いします藤崎


 先輩か、懐かしいな……そう呼ばれるのは中学以来だな。


「藤崎先輩はよくここに来られるんですか?」


「いや今日はたまたま、教室に居づらくて」


「私初めてで、まだいまいち憶えきれてないです」


 そうだよな、この学校無駄に広いから。

 その後いろんな話をして、植田とは少し仲良くなった気がした。


「では私はここで、今日はありがとうございました」


「俺の方こそありがとね、じゃあまた――って植田?」


「こ、これ……私の連絡先、です……で、では!」


 小さな紙切れを手渡された俺、植田はそのまま走り去ってしまった。

 貰った小さな紙切れを開くと、可愛げな文字で連絡先が書かれており、俺はポケットにしまった。

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