第10話

《尚輝視点》


「お前さ、何?俺は尚輝さんに用があるんだけど?」


「わ、私だって藤崎先輩に用があるの!」


 二人は俺に用があると言い合っていた、ただそれが原因となって俺は注目の的になってしまっていた。

 俺は二人を止めるべく声を上げた。


「朝からそうだけど、二人ともいい加減に――」


「嘘つくのも大概にしろよ、なんだよ」


「っ!」


「おい達也!」


 俺は皆に、それも結希の前で達也を怒鳴り付けた、頭ではもっと冷静にならなきゃいけないことを分かっていても。

 その結果、さらに状況を悪化させてしまった。


「ごめん尚輝さん、また放課後に」


「おい!話はまだ終わってねえぞ!」


 俺の制止の声も虚しく届かず、隣で肩を抱きながら泣き出しそうな高梨を前にした為に冷静になれずにいた。


「……なおくん、行って?こっちは何とかするから」


「結希……悪い、俺がついていながら」


「ううん、私の代わりにやってくれたんでしょ?なんていうか、その……か、格好良かったよ?」


 薄く赤く染まった頬、うっすらと微笑むその顔に俺に冷静さを取り戻させてくれた。

 小さく頷き結希、ありがとうと心の中で言いながら、達也の後を追った。




 ☆




 追いかけてから数分が経ち、体育館裏で酷く落ち込んでいた達也を見つけた。


「達也」


「……なんだ、なお兄か…姉さんかと思った」


「隣、いいか?」


 その問いの答えとして小さく頷かれ、隣に座った。


「どうしたんだ一体?お前ら去年まで何もなかっただろ」


「どうした、か……やっぱ姉さんから聞いてないんだ」


 どうしてここで結希の名前が?


「結希はお前達の間に起きたことを知ってるのか?」


「知ってるも何も、俺達姉弟なんだから」


「そりゃそうだけど……ていうか原因を教えてくれよ」


 達也は顔を上げて青い空を見つめていた。


「去年俺達は縁談がきたんだ、でも姉さんだけが断った」


 縁談……?な、なんだよそれって……?


「ほら、俺の父さん世界的に有名な人でしょ?だからいろんなところで声が掛かってたけど父さんが全部断ってくれてたみたい」


「縁談の件と今の件と何か関係でもあるのか?」


「……俺は断らずに受けた、そしたら話がまとまって婚約者として俺はその人と一緒になる事になった」


 俺は突然の事過ぎて、情報を整理するのに時間が掛かった。それで俺は最近の達也の行動が変わってるのを思い出した。


「お前……良いのか?あんなに高梨と仲が良かったのに」


「それは友達としてでしょ?なお兄みたいな感情をあいつに抱いたことなんて一度もないし、これからもない」


「……じゃあお前はもう相手の事が好きなのか?」


 今まで見たことがない顔をしながら、達也は小さく微笑んだ。


「俺は最初は断るつもりだった、でも相手の人が一目惚れしたらしく猛烈にアタックされて」


「それで逆に惚れてしまったと?」


「……うん、父さんの性格がまんま受け継がれちゃった感じ」


 その話は俺の両親も言ってたな……達也のおじさんはずっと一緒にいた幼馴染じゃなくて琴音さんを選んだって。

 その話を思い出した時、俺は何も言えなくなってしまった。


「そう、か……」


 もし、もし結希がそうなってしまったら、俺は……。


「なお兄、はっきり言うと姉さんは絶対に縁談は受けない」


「えっ……?」


「絶対に縁談は受けないから安心して?俺は自分から受けに言った結果だから」


 その言葉を言い残して、達也はこの場を去った。


「結希、俺は……」


 ――好きだ。

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