第7話
お母さん達が仲良く会話している間、私は一人自分の部屋で明日の事を考えながら、捻った足の状態を確認していた。
「いたっ……!」
右足が少しだけ痛む、まだ完全には治ってない。
そのままベッドに寝転がると、放課後襲われそうになったことを思い出す。
「どうしていきなりあんなことを……?」
普段の性格から考えられないぐらいの変貌っぷりに私は彼に恐怖を憶えた。
理由はいくつかあるんだろうけど、私にはもう好きな人が居る以上彼と付き合う事なんて出来ない。
「結希?部屋に居るの?」
ドアの向こう側からお母さんの声が聞こえた、急用なのだろうか?
「居るけどどうしたの?」
「お母さん達、これから出掛けてくるから尚輝くんと一緒に頑張るのよ?」
へ……?
「え、ええええええええええええ?!」
☆
痛む足を庇いながらリビングに戻ると、達也となおくんが仲良く会話しながら料理をしていた。
「あ、姉さん……ってどうしたの?その足?」
「ちょっと捻っちゃったみたいで……なんかごめんね」
そのままソファーにダイブして少しだけ休憩。
「ちめたっ……!」
「ちゃんと湿布で冷やさないと悪化するよ?」
達也はそのまま台所に戻って、夜ご飯の準備をしていた。
台所を見るとなおくんがお腹を抑えながら必死に我慢していた。
「ちめた……って、ぷっ!」
私は顔が真っ赤になり、なおくんを睨み付ける。
「尚輝さん、その辺にしないと」
「……そうだった、一度拗ねると機嫌取りがなぁ」
また二人で何事もなかったかのように、準備に戻った。
二人には全く聴こえない声量で
「……拗ねてないもん」
と言って、近くにあるクッションを抱き締めながら顔を埋めていた。
*
《琴音視点》
私と美咲で近くの喫茶店で、日頃の愚痴を溢しながら夫である拓人を待っていた。
「美咲、最近どうなの?」
「んー……ぼちぼちかな?なんせひろくん最近仕事忙しいみたいで前みたいに全然構ってくれないの」
「そりゃそうよ、前々から夢だったエンジニアになったのと同時に、世界各国で開発競争が始まってしまってるんだから」
それでも二人を支えるために頑張っている裕貴くんは心の底から凄いと思う。
私は教員免許を持ってるとはいえ、学校ではなかなか上手く行かずに結局、塾の先生として頑張っている。
「でも聞いたよ?拓人くんまたやったんだって?」
「ああ、あれね……」
拓人は私達とは違って、世界中から期待されている逸材としてテレビに出てから、各界から引っ張りだこになっている。
今日は裕貴くんが携わっている開発に駆り出されている。
「ホント凄いよね、あの頃を知ってる私達からしたら」
「ホントよ、全く何処でそんなに頑張ったのってぐらいよ」
私にプロポーズをした後、拓人は見違えたかのように誰よりも勉強を頑張っていて気付けば、前期期末テストで首位の座をキープしてきた私すらを凌駕するレベルになっていた。
「でも拓人くんからすれば琴音のおかげなんだよね?」
「半分は、ね?後は自力で頑張った結果よ」
「お、何々?仲良くママ会か?」
声がする方へ視線を向けると、噂の二人が来ていた。
「遅い!ずっと待ってたんだからね?ひろくん」
「悪い悪い、仕事が思いの外捗っちゃってさ」
そう言いながら拓人の肩を叩く。
「だから俺はなにもしてねえって……」
「まあまあ、お疲れ様二人とも」
私は二人を労い、席に着いた。
「今日はお互いの結婚記念日、だっけ?予定があれこれ入って――」
今日は結婚記念日、家の事は忘れて今を楽しんだ。
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