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『家出少女。
『私は、ロシアのお家から飛び出してきたの。
『パスポートは持っていたから。
『私が家出したのは、ママに会いたかったから。
『パパとママね。離婚したの。
『パパがお仕事忙しくて、お家に帰って来なくて。
『でもパパは、ママにお金を渡して、ごめんね、って。
『たまに帰るたびに言ってた。
『それがママは嫌だったんだって。
『お金はパパの変わりにはならないって。
『それで離婚しちゃったの。
『ママはね……私には話してくれなかったけれど、かけおちして結婚したの。
『もともとお金持ちのお家に生まれたって、聞いたけれど、私はあまり知らない。
『ジーヤが少し教えてくれたの。
『ジーヤはね。ママのお家でずっと執事をしている人なんだよ。
『だから、ママがかけおちして、家を出た後もそのお家で執事をしていたんだけど。
『ママが日本に戻ってからは、執事をしながら、ママが暮らすお家にお世話しに来てたんだって。
『そのお家は、私が今住んでるお家。
『あのお家は、日本に戻ったママはお金がなかったから、ジーヤがプレゼントしたんだって。
『ジーヤ、ママのこと好きだったのかな?
『そこは聞いても教えてくれないんだ。
『話を戻すね。
『私が日本に来たのは、約二年。
『詩色くんと初めて会った日が、実は二日目だったんだよ。
『えへへ。
『思い出したら、嬉しくなっちゃった。
『えへへ。
『ママを追って家出をした私は、ママが暮らすお家に着いて、一緒に暮らしたの。
『私の引き取りはパパなんだけれど、私もパパがお仕事で帰って来ないから、寂しくて……。
『ママが日本で一人で寂しくしてたらやだなあ、って。
『そう思って、ママのお家におしかけちゃったの。
『それからジーヤとも初めて会って、高校に入学して。
『授業参観で、わがまま言っちゃって……なの。
『私が声が出せなくなっちゃったのは、さっき話したから、私がロシアに戻ることになった話をするね……。
『あのね。私のパパ、って。
『結構なお金持ちなの。
『自慢じゃないんだよ……?
『だって自慢だと思えないもん……。
『おっきな会社のお偉いさんなの。
『その会社のね……。社長さんのね。
『そのね……。
『息子さんとね……。
『私ね……。お見合いさせられてるの……。
『家出したのは、それも理由だと思う。
『結婚したくないわけじゃあないけれど。
『でも……パパが選んだ相手とするのは嫌なの。
『悪い人じゃないんだけど。でもやっぱり、どこか社長の息子、って雰囲気があって……。
『私はその人が苦手なの。
『だから家出しちゃえば、なかったことになるかな。ならないかな、って。逃げたの。
『そう思っていたけれど、でも。
『詩色くんとデー、ううんっ!
『お買い物! お買い物したとき!
『その帰りにジーヤが待ってたの覚えてる?
『うん。その時、ジーヤから言われたの。
『ジーヤに連絡があったんだって……。
『私と息子さんの結婚の日取り。
『パパもね……。社長の息子だから、私に結婚して欲しいんだと思う。
『私って、ハーフでしょう。
『言ってないから、ママがロシア人で。
『パパが日本人だと。そう思っているよね?
『ううん。それであっているんだけど。
『ママは日系ロシア人なの。
『この髪はね。ママとお揃いなの。
『日本に来て、黒髪が多かったから黒にしたこともあったけど。
『詩色くんと初めて会ったとき、黒髪にしていたのは、私が日本でお友達が出来るように、って。
『ママが染めてくれたの。
『でも、今はこのままにしてるの。
『ママと、お揃いだから。
『日本に来たばかりの頃は、日本語が喋れなかったし、書くのも苦手だったの。
『だけど、意味はお勉強してわかるから、聞き取ることはできた。でも。やっぱりそれだとコミュニケーションが難しくて。
『日本の学校に行っても、お友達が出来なかったの。
『でも、ママに日本の学校で頑張ってるところを見てもらいたくて。
『だからわがまま言っちゃったんだけど……。
『ママが死んじゃって……、私、学校お休みして。
『ずっとお休みして。でもこのままじゃダメだ、って。
『
『私は学校に行ったの。
『それが今年の四月。
『詩色くんとまた会えた日だよ。
『だからあの日、すっごく緊張してて。
『不安で。怖くて。
『でも、そんな私に話しかけてくれた詩色くんのおかげで、私は学校が楽しみになったの。
『無鳥さんや、
『学校は違うけれど、しぃるさんも。
『だんだんとお友達が増えて、すごく楽しいの。
『でも、私は日本に居られない……。
『そう思ったら、みんなが私を忘れてしまうんじゃないか、って。
『不安で。やっぱり怖くて。
『なかなか言えなくて……。結局、言えなくて……。
『それで、引きこもりに戻ったの……。
『毎日。毎日毎日。
『本当は学校行きたいのに。行ってみんなと楽しく部活したいのに。
『でも、行ったらみんなともっと一緒に居たくなっちゃうから……。
『それが怖くて。
『だから、詩色くんが今日来てくれたとき、本当は泣いてたの。
『来てくれた瞬間に、いっぱい泣いちゃったの。
『会ったら
『わかってても。嬉しかったの。
『こんな弱虫の私なんかと仲良くしてくれて、嬉しかったの。
『ありがとう。詩色くん。
『私はもうすぐロシアに戻るけれど、詩色くんやみんなに会えたことは、宝物なの。
『ずっと大切にするの。
『ありがとう。本当にありがとう。
『今まで言えなくて、ごめんなさい。
『私がいなくなっても、筆談部は続けてね。
『あとね。門限がある、って。
『それ嘘なの。ごめんなさい。
『放課後のお話がもっともっとしたかったから。
『無鳥さんに言ったら、無鳥さんが詩色くんに部活を作らせちゃおう、って。
『それで嘘ついちゃったの。ごめんね。
『筆談部は——みんなは、私の宝物なの。
『だから、私がいなくなっても、なくさないで。
『お願い。お願いします。
『それが最後のわがままなの』
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