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『筆談部活動記録日誌』——いちページ目。
木曜日。
日本に着いて、二日目。私は迷子になったの。
知らない人に話しかけられて、腕を掴まれたの。
怖くて。怖くて不安で。泣いちゃったの。
でも。知らない男の子が助けてくれたの。
大きな声で、『僕を怒らせんじゃねえよ!』って。叫んだの。怖い人だと思ったの。だけどその男の子は、少し震えてたの。ビクビクしながら、怖がりながら、私を助けてくれたの。格好良かったの。
私に『ここから離れた方がいいぜ』って言ってくれたの。ありがとうございます、って言ったつもりだったけど、たぶん上手く言えなかったの。日本語の発音はまだまだ苦手だけど、意味はお勉強してわかってきたから喋れるように頑張るの。一緒に居た女の子が、男の子のことを『しーろ』って呼んでたの。
しーろくん。ありがとうございました。
私のヒーローなの。
『筆談部活動記録日誌』——九十五ページ目。
月曜日。
久しぶりの学校。私、人見知りだからすごく不安。でもね、今日は嬉しいことが、なんとふたつもあったんだよ!
ひとつは、私のヒーローにまた会えたの!
もうひとつは、ヒーローが話しかけてくれたの!
しーろくん。私はそう思っていたけれど、本当は、
葉沼詩色くん。私、すぐ気づいちゃった。
嬉しい。また会えて嬉しい。話しかけてくれたのすごく嬉しい。
だから学校が楽しみになった!
不安をなくしてくれた。やっぱり私のヒーローだったの!
『筆談部活動記録日誌』——九十九ページ目。
月曜日。日曜日が嫌いになってきたぞお!
今日は、唐揚げもらった記念日!
詩色くんの妹さんが作った、詩色くんのお弁当の唐揚げもらった記念日だよ! すっごく美味しいの! 下味がしっかりしてて、冷めてても美味しい! わーい! 唐揚げバンザーイ!
サンドイッチにポテサラも挟んだんだよ。
詩色くんにサンドイッチあげたよ! 私が作ったサンドイッチ。挟んだだけなのに、いっぱい褒めてくれて嬉しかったあ! でも恥ずかしかった!
やっぱり嬉しかった! どっちもだあ!
どうせならもっと褒めろお! ……なんちゃって。
『筆談部活動記録日誌』——百一ページ目。
水曜日。
今日はね? 恥ずかしい日だったんだよ。
実はね、その……女の子の日がきちゃったの。油断してたよお、完全に。
でもね? ライン教えてもらった記念日でもあるんだよ!
だからラインで、助けてもらった。えへへ。
恥ずかしかったけど、詩色くんはやっぱり助けてくれたの。えへへ。今日も私のヒーローだったあ! わーい!
あと、びっくりしたこともあったんだよ。
私が初めて助けてもらったとき、詩色くんと一緒に居た女の子。
なんと、一発で正体ばれたあ! 無鳥さんに!
無鳥さんとライン交換して、すぐ送られてきた言葉が、『フーちゃん、あんときの子だよね? てか年上でしょ?』だったの。目を合わせても居なかったのに、バレたの驚いたあ……。私の髪の長さも色も、今と違っていたのに。
びっくりしちゃって、顔に出ちゃったんだけど、優しい無鳥さんは、詩色くんのBL本に話を
あと重大なニュースがあるよ!
私ね、今日ね? 詩色くんに呼び捨てを希望しましたー! いえーい。ぱちぱち!
えへへ。名前呼び捨て、嬉しいぞー!
夜のラインがすごく楽しかったんだあ!
『筆談部活動記録日誌』——百六ページ目。
日曜日。最高の日曜日だったんだぞお!
今日は午後から無鳥さんとお話したんだよ。私、日本のハンバーガーショップに初めて入ったよ!
おいしかったあ……。無鳥さんとお話してから、まさかの詩色くんのお家に行くことになったの!
実はね……? すこーしだけ、BL読んでみたいなあ、って言ったら、無鳥さんがしぃるさんに会わせてくれたの。しぃるさんは面白い女の子。
でもね? 本当のことをちょっぴり言うとね?
お休みの日に詩色くんに会えたのが、一番嬉しかったよ!
詩色くん、部活作ってくれるって言ってくれた!
私の事情を聞かないところは、ほんのちょっと冷たいのかなあ?
でも私は優しく思うの。詩色くんは優しいんだよ!
だって、私のヒーローだもん。
『筆談部活動記録日誌』——百七ページ目。
火曜日。この日記の名前を変えた日だよ。
じゅーだいはっぴょー!!!
なんと私部員になった! 『筆談部』って言うの!
面白いんだよ。筆談して遊ぶだけなのに、すごく楽しい! みんな、優しくて本当にありがとう!
どうして私が筆談なのか言ってないのに、私に合わせて接してくれる。
甘えちゃってるんだろうなあ、私。
でも、なかなか言えないんだあ。
私が声が出せなくなったこと。
いつかきちんと言うから、話すから。
だから今は、もうちょっとだけ、甘えさせてください。
『筆談部活動記録日誌』——百八ページ目。
水曜日。
初代漢字しりとりチャンピオン! タイトルホルダー、私だあ!
いや、詩色くん強かった……。『
たまたま日本語をお勉強したとき、色々な辞典とか読んでいたことが役に立って良かったあ。
強敵だった詩色くんを撃破したのは、私の『
ビクトリー! ぶいっ!
次も負けないようにしなきゃね!
悔しがる詩色くん、なんか可愛かったんだよ。
『筆談部活動記録日誌』——百九ページ目。
木曜日。
今日はね、無鳥さんが補習で、私と詩色くんだけの部活だったの。
詩色くんの提案で、ゾンビ映画を観たよ!
すごく怖かったあ……。
私、ずっと詩色くんの腕にしがみついちゃった。
映画が終わってから、補習が終わった無鳥さんが急にドアを開けたから、びっくりしちゃった!
びっくりしちゃったから、私、詩色くんに抱きついちゃった!
緊張した。でもね? 詩色くんも緊張してた!
心臓がドキドキしてたの!
その音を聴いたら、私もドキドキしちゃった。
気づいちゃった。私、いつのまにかね?
詩色くんが好きだったみたい……。
えへへ。恋しちゃったみたい。
そう思ったら、帰ってから熱出ちゃった!
明日学校行けるかなあ……。でも、詩色くんに会ったら、恥ずかしいからどうしよう。
でも、学校行きたいなあ。
今、熱出しながら書いてるけど、詩色くんに会いたいから熱下がれえ!
計ったら上がってたあ……。
あれ? おかしいなあ?
『筆談部活動記録日誌』——百十ページ目。
金曜日。
熱だよー。学校行けなかったあ……。
たいくつだよー。ライン来ないよー。
ぷんすかっ! 送ってくれても良いのにい!
仕方ないから、我慢できなくて私から送ったよ。もちろん詩色くんに。
心配してくれてたんだって。心配で寝れなかったって。ほんとかなー?
本当だったら、嬉しいなっ!
でもきちんと寝て、体調は崩さないでね?
学校休んだらぷんすかだ。休んだのは私だけど。
熱のばーか。夜になって下がってくれたけれど、昼間に下がってくれれば良いのに。
そうすれば、途中からでも学校行ったのにー。
でも、ちょっぴりラインで甘えちゃった……。
だけど今日学校に行けなかったから、明日は土曜日でお休みの土曜日だし、来週まで会えないのかあ。
待ち遠しいぞ、このやろー!
あ、でもでも無鳥さんが明日、お見舞い来てくれるんだって! わーいわーい!
『筆談部活動記録日誌』——百十一ページ目。
土曜日だよー。お休みの土曜日。
びっくりの土曜日だったよ!
無鳥さんにやられたよお。無鳥さん、一人で行くね、って言ってたのに。
まさかまさかの詩色くんまで一緒だった!
しかも詩色くん。いつもより格好良かった!
だけど急に来たから、慌ててメガネ踏んじゃったもん。壊しちゃったよメガネ……。
仕方ないからサングラスしたんだけど、これはこれで詩色くんのお顔をよく見れた!
しかも無鳥さん、すぐ帰っちゃうし!
すごくありがたいけれど、でも、言っておいて欲しいよね。帰ることも一緒に来ることも。私、慌てて洗濯物しまったんだもん。
焦ったよー。思いっきり下着干してたから。
んー。見られたら、やっぱり恥ずかしいもんね!
もし詩色くんに見たい、って言われたらどうするのかな、私。
見せちゃおっか? きゃー!
でも詩色くんって、女の子に興味あるのかなあ?
無鳥さんみたいな可愛い女の子が近くに居ても、平然としてるんだもんなあ。
ぎゅーしたとき、ドキドキしてくれたけれど、私のアプローチ弱いのかなあ?
だからね!?
そう思ったから、頭撫で撫でをリクエストしてみたよ! かなり恥ずかしかった! でも頑張ったから、誰も居ないところなら、詩色くんの手を独占出来るよ! わーい!
あと、詩色くんと見つめあっちゃった!
三秒くらいだったけれど、大きく前進した気がするよ!
でね? 詩色くんに、とうとう私の正体ばれたあ!
てっきり忘れられてるかな? って。そう思ってたけれど、覚えててくれたの!
これはすごく嬉しかったあ……。
私のこと、年上だと知っても、不器用だからみたいに言って、このままで居てくれるって言ってくれたの!
泣いちゃったもん。私。
本当に優しくて、私のヒーローだ。
ヒーロー大好き! ちゅ。なんてね?
えへへ。でも本音を言うと、そう言う雰囲気になるかと思ったりもした……。見つめあって、ちゅ、って。しても良いって思っちゃった……っ!
あう……私えっちだあ……。
でも仕方ないよね? だって私、詩色くんのこと好きなんだもん。もちろん無鳥さんのことも好きだけど、無鳥さんの好きはお友達として。
詩色くんは、キスとかしたい好き。
キスとか……キス以上とか?
あう……やっぱり私えっちだあ……。
そして筆談部に進入部員が増えたって聞いたよ。
可愛いんだってー。やきもちだぞー。
だから、ちゅ、って。強引にしちゃったら良かったのかなあ? 私にその勇気があればなあ。今日の私、押し倒されることをちょっぴり期待しちゃってたもん。
もー。今日の私、えっちなことばっかり書いてる。
反省しなきゃ!
そして、初あーん記念日だぞー!
お名前シール、お揃いなんだよ!
『筆談部活動記録日誌』——百十三ページ目。
月曜日。
しっかりと熱が下がったから学校に行けたよ!
今日は進入部員の女の子と初めて一緒の部活。
矢面さん、すごく女の子って感じだった。でも、言葉遣いが少し男の子っぽいかも。
だけどそう言うのって、ギャップできゅんってしちゃうのかな?
詩色くんと仲良さげだし。むー。
私に構えー。詩色くんのばーか……。
でもね? こっそりと撫で撫でしてもらう約束してたから、きっちりと撫で撫でしてもらっちゃった。
今日のところはそれで許す!
ちょっと偉そう……かな?
『筆談部活動記録日誌』——百四十二ページ目。
水曜日。文化祭トーク!
文化祭のだしものを決めたー!
私たち筆談部は、鉄板焼き! 焼き焼き!
焼き焼きするの詩色くん! 絶対似合う!
楽しみだなあ、文化祭。私、こういうイベントはほとんど初めてだから、たくさん楽しみたい。
今日はだしものを決めて、それからファミレス!
ファミレスデビュー! ファミレスすごいの!
メニューが多い! なんでこんなに豊富なの?
ドリンクバーって、あんなに安くて平気なの?
何杯おかわりしても、自動販売機で二本ぶんくらいの値段で、どうやって利益を出しているのだろう?
単価ってそんなに安いのかな?
んー。日本の不思議だ!
衣装は私が色を決めたよ。無鳥さんがデザインを練って、矢面さんが仕上げるの。
あと、私が詩色くんを好きなこと、みんなにばれたあ。あははは。
詩色くんには、バレてないけれど、無鳥さんにも矢面さんにもバレバレだったんだって……。
二人とも協力してくれるって、言ってくれた!
やっぱり筆談部最高!
そしてお買い物に誘われたよ! 詩色くんに!
デートだよ! デートだよね? デートで良いよね!?
うん。デートで良い! わーい!
『筆談部活動記録日誌』——百四十六ページ目。
日曜日。デートの日曜日!
目一杯、おしゃれした!
だけど、お洋服褒めてくれなかった……。
でも今日は凄かったんだよ!
じゃーん! 間接キス記念日でーす! えへへ。
あーんおねだりして甘えてみたら、詩色くんのスプーンであーんしてくれたの!
照れたあ。でも美味しかったあ。
お返しに、私のフォークでパスタあーんしちゃった!
食べてくれたの! えへへ。
私エキスが詩色くんに混ざった日!
なんか変態さんみたいだね、最近の私。
でも、私をこうしたのは、詩色くんだから、じゃあ、どうしよう?
責任とってもらっちゃう……とか?
えへへ。
でもね。ハッピーばかりじゃなかった。
ジーヤが今日、お家帰ったら待ってたの。
それでね。やっぱり私、ロシアに戻されることになっちゃった……。
だけど、詩色くんたちと、文化祭は成功させる!
私が落ち込んだら、みんな優しいから一緒に落ち込んじゃうかもしれないもん。
ごめんなさい、みんな。
私、きちんと言えるように頑張るから。
少しだけ、内緒にさせて。
お願いします。
『筆談部活動記録日誌』——百五十八ページ目。
土曜日。文化祭の前日だよ。
矢面さんが、天才だった日……。
私がね? 無鳥さんと職員室に行ったときに、矢面さん、詩色くんにいっぱい質問してたみたい。
戻ったとき、実は聞いちゃったんだあ。
詩色くん。私のこと好きだって……。
嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい!
しかもね!? キスとかしたい好きなんだって! 女子として好きだって言ってくれたんだよ!
盗み聞きしたみたいになっちゃったけれど、私恥ずかしくて恥ずかしくて、マスク貰いに保健室までダッシュしちゃった。
マスクでお顔隠した!
だって口がもうね、自分でもびっくりするくらい緩んじゃったんだもん……。
せっかく詩色くんのお顔、見れるようになってきたのに、今日は恥ずかしくて見れなかったあ。
好きって言われて、詩色くんは私を女の子にしちゃったんだよ? きゃー!
ドキドキだったあ。心臓がもうずっとずっとドキドキしてて、もしかしたら鼻息とか荒くなってたりしちゃったかな……?
マスクしてたから、バレてない……よね?
うん。バレてないことにしよう!
でも、好きだって言ってくれたから、私がロシアに帰るって、言いにくくなっちゃった。
言えるかなあ、私に……。
『筆談部活動記録日誌』——百五十九ページ目。
日曜日! 文化祭だー!
忙しい! すごくすごく忙しい!
でも、忙しさの百倍くらい楽しかった!
詩色くんと写真撮ったの。宝物にするの。
あとね。私にしては脚を出して、少しセクシーを意識したんだよ! 無鳥さんに提案されたときは恥ずかしくて無理! って思ったけれど、でも、詩色くんは見てくれたかな?
ドキドキしてくれたかな?
してくれてたら、嬉しいな。
お昼はね、詩色くんの鉄板焼きを食べたよ!
実はね? 今だから言えることなんだけど、お昼のとき、無鳥さんと矢面さんが席を外したの、たぶん私があーん要求してたのバレたんだと思う。
詩色くんは気づいてなかったけれど、私と詩色くんがこそこそラインしてるの、二人とも思いっきり覗き込んでたんだよ? 身を乗り出して。
私があーんとか書いたら、すぐにジュース買いに行っちゃうし。
本当に、筆談部優しすぎるよね。
だけど、しぃるさんにあーん目撃されたのは、予想外だったあ……。
口笛吹けなかったの。音全然鳴らなかった。
あのあと、気まずくなったけれど、でもね?
本当はちょっとだけ。チューして欲しいって言いそうになっちゃった!
えへへ。内緒内緒。
文化祭のだしものが完売したあと、詩色くんは私を抱きしめてくれた。
きっと顔真っ赤だったよ。私。
詩色くんも真っ赤だった。でも、抱きしめてくれた。
ドキドキしっぱなしだった。チューとか考える余裕なかった!
言ったら、してくれたかな?
でも恥ずかくて私から言えないよお。
好きが止まらないんだ、最近。どうしたらいいんだろう。
まだ、色んなことを言えてないのに……。
せっかく手を繋いで、初めてぎゅーってされた記念日なのに、湿っぽくなっちゃった……。
『筆談部活動記録日誌』——百六十ページ目。
月曜日。でもお休みだよー!
打ち上げじゃー! 文化祭の打ち上げじゃー!
詩色くんのお家で、打ち上げしたの。
相変わらず、しぃるさんの唐揚げは、絶品!
いっぱい食べちゃった。抱きしめられて嬉しかったことも伝えちゃった!
伝わったかな? たし算。
伝わったよね。詩色くんだもん。
七夕の短冊も書いたんだよ。
実はね? このページに挟んであるでしょ?
それは、吊るせなかったの。
星に願って、叶わなかったら嫌だったから、吊るせなかった。
だから、二枚目に、みんな大好き! って書いちゃった。
本当は。詩色くんへの気持ちを書きたかったけどね。でも、もうじき私は居なくなってしまうから。
私のことを好きって。言ってくれた詩色くんを悲しませたくないの。ごめんなさい。
わがまま言って、ごめんなさい。
結局、今日も言えなかった……。
明日は言えるかな……。ううん。きっと言えないと思う。
私、臆病だから。怖がりだから。
不安なの。みんなが私を忘れてしまうんじゃないかって、不安なの。
怖くて、言えない。
私は言葉に対して、臆病になっているんだ。
切り替えたはずだったのに。でも、はずだった、から。
切り替えたつもりになっていただけなんだよね、きっと。
怖い。不安。やだ。
やだ。帰りたくない……。
私はここに居たい……。
助けて……ヒーロー。
詩色くんと色んなことをしたいのに。
もっと一緒に居たい。キスしたい。ぎゅーっていっぱいされたい。ここに居たい。
そばに居たい。好き。大好きなの。
私は、葉沼詩色くんが、大好きなの。
……大好きなの。
挟まっていた短冊には、『詩色くんのお隣にずっと居れますように』——と。栞のように、このページに挟まっていた。
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