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タブレット端末は持っていても良いのかもしれない。
それが筆談部の部長になってから、思ったことである——というのも、ノートとシャープペンシルさえあれば、筆談することに不自由はないが、しかし筆談するたびにノートをイチページ使用するのがもったいない気がするのだ。
まあ、薄く書いて、消しゴムで消せば良いのかもしれないが、でも薄く書くと読んで貰う際に読みにくいだろうし。
ということで、初部活を終えた夜。
僕はリビングにて、妹におねだりすることにした。家計の財布を握っているのはしぃるなので、兄という立場をリリースして、家計の財務大臣に全力でおねだりすることにしたのだ。
「タブレット端末だとお? この贅沢めっ!」
「……………………」
一蹴されてしまった。言葉だけでなく、物理的にも一蹴されてしまった。ぐはっ。
しかし僕に文句を言う権利はない。しぃるは、安い食材などを探して、少しでも家計の負担を減らそうと節約してくれているのだから、一蹴されようとも、たとえ物理的に一蹴されてしまったとしても、黙って小さなあんよに
「……だめ?」
「んー。ちなみにタブレット端末って、どれくらいのお値段なの?」
「そうだな。別に新品じゃなくて、中古で安いやつなら……三万くらい?」
「三万! それ一万円の三倍だあ!」
「その通りだしぃる。よくわかったな。さすが僕の妹だぜ」
「えへへー。もっと言ってー?」
「ひょっとして、今気づいたんだけど、僕の妹って天才じゃない? 僕が気づいてやれなかっただけで、僕の妹は天才だったのではないだろうか。恐れ入ったぜ……しぃる。まさかお前が、三万円を一万円の三倍だと見抜いてくるとは。こんな妹を持って、僕は鼻が高いよ。お前にはそうだな。『ザ・妹』の称号を与えよう」
「えへへえへへー。もっともっと言ってー」
「もしかしてお前って、すごく可愛いんじゃないか? 遅まきながら気づいたけど、いやさ近過ぎて気づけなかったけれど、妹じゃなかったら惚れていたところだぜ。危ねえ。見つめていたら、心が奪われてしまうぜ。この盗っ人ならぬ盗っ
「もー、お兄ちゃん! さっきから本当のことしか言わないんだからあ! しょうがないなあ、ちょっとだけならキスしても良いよ? んっ」
「……………………」
さすがにそれはきつい。ん、ってスタンバイされても、さすがにきついきつい。
「……お前のファーストキスは、僕が予約しておくぜ、しぃる」
「やだお兄ちゃん、普通にかっこいい!」
「ふっ。お前の兄だからな。僕も成長しているんだ」
「しょうがないなあ、もー。わかった良いよ。タブレット端末を買うの許す!」
「ありがとう、しぃる——いや、プリンセス」
「そこまで言われたら、わたしもよーし! 今夜は添い寝してあげよう! やったねお兄ちゃん! わたしの添い寝だよ!」
「……わーい! 僕寝れるかなあ……」
「やだもう、えっちー!」
「…………あはは」
こんな馬鹿な妹が心配になる。たまーにブラコンみたいになるんだよな、僕の妹。まあ、本気じゃないだろうし、本人もギャグだと思っているだろうから、こんな会話が成立するのだろうが。果たして成立させて良い会話なのかは不明だが。
てか添い寝かー。勘弁してほしいなー。
こいつの寝相、最悪なんだよな。前にパソコンを買ったときも、実はこんな感じだったんだけど、その時の添い寝は、朝起きたら僕はしぃるの足を食いながら、鼻血出してたからなあ。寝ながら僕を蹴りまくって、その足を口の中に突っ込んでくる寝相だからなあ。
まあそれもタブレット端末のためだと思おう。
タブレット端末を手にするための犠牲者が僕自身ということで我慢しよう。
「でもお兄ちゃん、タブレット端末どこで買うの?」
「んー。そうだなー。ネットで買っても良いけれど、中古でも綺麗なやつがいいし、それならやっぱり、自分の目で見て買いたいかな。この辺で売ってる所、知ってるか?」
「そうだなあ……。家電の安いところはわたしのエリアじゃあないからわからないけど……じゃあるうる先輩に聞いてみたら?」
「
「うん。るうる先輩、パソコンとか詳しいし」
「え? そうなの?」
「そだよー。るうる先輩はBLの同人誌とか、ネットで良く買ってるもん。なんなら一緒に買いに行けば?」
「同人誌をネットで買ってるから家電に詳しいことになるのか僕にはわからないけど、まあ聞いてみるか」
「せっかくライン覚えたんだから、こういうときに使うんだよ、お兄ちゃん」
「だな。じゃあ、寝る前に聞いてみるよ」
「じゃあお兄ちゃんのお部屋にれっつごー!」
「……………………」
あ、やっぱり僕の部屋に来るんだ。
本当に添い寝するんだ……。
「ん? どしたのお兄ちゃん? 早くいくよー!」
「…………了解だよ」
そして場面は僕の部屋に移った。
と言っても、相手は妹なので、当然のことながらロマンチックな雰囲気になることはない。ちょっとゲームをしたりして、楽しく楽しく非常に楽しく遊んでから、すぐに寝ることになった。
しぃるが寝たのを確認して、僕は無鳥にラインを送る。
『タブレット端末買うのに、オススメの場所とかある?』
返事はすぐに返ってきた。
『んー。ここかな』
と。返信には店のホームページのURLが添付されていたので、開く。
地味に遠いなあ。いやまあ、遠いと言っても隣町なのだが。しかし普段から遠出をしない僕からすれば、隣町だろうと電車に乗る時点で遠い。
『てかなにあんた、タブレット買うの?』
『うん。しぃるの許しも得たし、筆談部の部長としては持っておくべきかと思ったからな』
『ふーん。本当にあんたノリノリじゃん』
『部活じゃなくても、タブレット端末なら使う場面はあるだろ』
『まあね。あたしも買おっかなー』
『お前も持ってないのか?』
『うん。デスクトップとノートパソコンがあるから、必要性を感じてなかったからね。でも、筆談するのに、紙のノートだとノートを何冊も使うことになりそうだし』
『ほとんど僕と同じ理由だな』
『あんたがタブレットまで買おうとするなんて、さてはフーちゃんにマジだな?』
『……なんだよマジって』
『惚れてるんだな? って』
『あんまりストレートに言わないでくれない?』
『否定しないんだー?』
『否定は、まあしないよ。でも言うなよ?』
『へいへい。フーちゃんもあんたのこと、好きなんじゃない?』
『そりゃねえだろ。僕がフウチに惚れる要素はたくさんあるけど、逆は無さすぎるだろ』
『そうかなー? あたし的には、あんたたちイチャついてるようにしか見えないよ?』
『それは、常にフウチが赤面してるからだろ』
『まあ、そうかもしれないけど。でもなー』
『なんだよ?』
『いや、あんたさ。まだ気づいてないの?』
『なにが?』
『んー。まああんたがその様子じゃあ、まだ気づいていないんだろうね』
『だからなにが?』
『いーや、なんでもないよ。それよりタブレット買うなら、あたしも着いて行っていー? ついでにあたしも買うから』
『まあ、構わないけど』
『じゃあ、週末で良い?』
『おう。わかった。ナビ頼む』
『はいよー。じゃ、あたし寝るから』
『サンキューな、無鳥』
『どういたしましまー。おやー』
と。こんな感じで、無鳥とのラインは終わった。
「……………………」
なにをだろうか。果たして無鳥は、なにに対して僕が気づいていないと言ったのだろうか。
わからない。今の僕にはわからない。
それに気づくのは、あるいはもう少しだけ先のことだった。
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