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「ただいまー。ところでしぃる。お前のポテトサラダは、ポテトサラダ史上ナンバーワンだな!」
帰宅した僕は、リビングでくつろぐ妹を相手に、思い出したかのようにポテトサラダを褒めた。これ以上ないくらいの褒め言葉だと、言ってる自分でも思うくらいの称賛である。
「そりゃあ、わたしのポテトサラダは、森羅万象ナンバーワンだけれど、今更そんなこと言われても、挨拶に困るよお……えへへ。おかえり」
僕の史上最大の褒め言葉を、自画自賛で超えてきやがった。果たしてしぃるが、森羅万象の意味をきちんと理解しているのかは不明だが。
「お弁当、全部食べれたの?」
「当然だろ。もちろん完食だ」
「よく唐揚げを十八個も食べれたね。さっすがお兄ちゃん! いよっ! シスコン!」
「それ、絶対褒め言葉じゃねえからな?」
妹が堂々と兄に対してシスコンとか言うなよ。本当に僕がシスコンだと誤解されてしまうじゃあないか。
「お弁当箱、ちょーだい」
「ご馳走さまでした」
「苦しゅうない。あ、焼売食べたいなあ」
「お前、イントネーションだけで生きてる感あるよな」
「でも、森羅万象ナンバーワンの妹と呼ばれるわたしだけれど、焼売を包むテクノロジーはまだないの……」
「そもそも焼売って、家庭で作れるものなのか? あと、テクノロジーだと科学技術になるからな? それを言うならスキルだ。もしくはテクニック」
まあ、料理も科学と言えば科学なのかもしれないが。
森羅万象の妹という発言は、どういうことなんだかわからないので、スルーしておこう。
「作れるでしょ。そんなこともわからないの? 高校生なのに?」
「高校生なら誰もが知ってる知識なのか、それ?」
「お兄ちゃんはお風呂の準備してね。わたしは晩ごはんの準備するから」
僕の質問が無視された瞬間である。まあ、微小のイラつきすら感じないが。
家での役割分担は、僕が風呂掃除と準備。それからゴミ出しとお米を買う係で、しぃるは洗濯と洗い物。そしてご飯を担当している。
今晩の
ゴシゴシして、シャワーで流して、お湯溜める。これだけだ。僕の手際なら、ゴシゴシして流すまで、五分あれば余裕余裕。
なので五分後には、お湯を溜める工程までたどり着くので、溜めてる間は、特にやることはない。
リビングにて、キッチンに立つ妹をたまーに見たりしながら、テレビを観るくらいしかやることがない。
「おや?」
と。不意にキッチンに立つしぃるが、わざとらしくそう言った。
「おやおや? おやおやおやあ?」
わざとらし過ぎて、どうした? って言う気にならない。
「おやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやあ?」
「……………………」
「おやおやあ——っ!!!!!」
「わざわざ耳元まで来て怒鳴るなよ……」
耳にダメージがあるじゃねえか。キーンしてるぞ、僕の耳。
「たくっ。どれだけ僕にどうした? って言って欲しいんだよ。この構ってちゃんが。で? どうした?」
「んー。んんんー。お兄ちゃん、今日のお弁当を残さず食べて偉いねー、って言ってご褒美に洗顔してあげようと思ったけれど、お兄ちゃん? 今日、お箸以外にも使ったんだね? 意外にもお箸以外に使ったんだね?」
「そりゃあ、唐揚げを食べるのに使ったよ」
「ふーん? はひふーん? はひふへーんだなー? お兄ちゃん、わざわざお箸があるのに使うかなあ? お箸だけで唐揚げを食べるお兄ちゃんのことを、わたしはお兄ちゃんと呼び続けていたのだけれど、さてはお兄ちゃんじゃないな!?」
「僕を兄と判断する理由がそれなのか? お箸以外を使う僕は、お前の兄ではないのか?」
「まあ、お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど。そうじゃなくて。わたしがお弁当箱に皮肉で入れたカラフルなやつを使うなんて…………」
「お前もそのカラフルなやつの正式名称知らねえのか。さすが僕の妹だな」
あと皮肉で入れてたのか。それは初耳だったよ。
「だって、お兄ちゃんって一人でお弁当食べてるんでしょ? お友達居ないから」
「おいおい。妹よ。僕を見くびり過ぎだぜ。僕だって、お弁当を食べる友人くらい存在するんだぜ?」
「存在するの!? うっそほんとに!? アンビリーバボー!」
「僕をなんだと思ってんだ!」
「お兄ちゃん」
「正解だよ!」
「いやだってお兄ちゃん。高二になってもラインやってないし……。てっきりわたしは、お兄ちゃんがトイレランチしてると思ってたのに……」
「おい」
おい。色々おい。トイレランチしてないことを残念、みたいに言ってんじゃねえ。
「で? つまりお兄ちゃんは今日、誰かとお弁当をシェアした、と?」
「まあ、シェアした、って言えるのかな」
「唐揚げをあげました。何かもらいましたか?」
「サンドイッチもらった」
「ふむふむ。サンドイッチをもらった。サンドイッチをもらった——っ!?」
「そんなに驚くことじゃねえだろ。サンドイッチだぞ? 黒毛和牛のステーキとかのリアクションすんな」
「そんなのお弁当に持ってくる人存在するの? お兄ちゃんのお友達も存在するの?」
「知らないけど、探せばいるんじゃね? というか、いつまで僕を疑ってやがるつもりだ」
「サンドイッチかー。サンドイッチねー。サンドイッチって。それ、女だな?」
「サンドイッチって情報だけで、なぜそう決めつける?」
当たってるけどさ。
でもなんだろうな。この微妙な恥ずかしさ。
妹に話すには、微妙に恥ずかしさを覚える。
「女かー。女なのかー。そっかー。それでもシスコンかよ。見損なったよお兄ちゃん!」
「念のため言っておくが、僕、シスコンを名乗ったことないからな? あとそれを理由に僕を見損なうなよ。むしろ妹として喜べよ」
「えーん。お兄ちゃんが浮気したあ」
「もしかしてお前、僕に焼売買って来させようとしてない?」
「さて。洗い物しよっと。ゴシゴシ」
図星だな。絶対図星だな。
「……冷凍食品のやつでいいか?」
「え? どうしてわたしが焼売食べたい、ってわかったの? もー、以心伝心しちゃったのかな? やだえっちー」
「コンビニの冷凍食品のやつでいいんだな?」
「あと、からしもよろしくお願いしますお兄たま」
「了解了解。お兄たま了解。行ってきます、しぃるたん」
やれやれ。我ながら妹に甘いぜ。
「いってらっしゃい。でもその呼び方はキモいからやめてね?」
これがもしや、いわゆる娘にキモいって言われる父親の気持ちなのだろうか?
まあ、僕の場合は妹だが。地味にグサっと刺さるな……。
「あーそうだ、しぃる。帰ったらラインの使い方教えてくれ」
「あー! やっぱり女だなあ! この浮気ものー!」
「なんかデザート買って来てやるから」
「チョコモナカアイスを所望するぜい! アニキ!」
我が妹ながら、なぜこうも兄妹で性格が違うのか。僕と違って、頭悪いからなあ、しぃる。
まあ、これも兄の宿命か。妹のパシリ(?)もお兄ちゃんの仕事だろう。
「……………………」
いや。本気で言ってるわけではないけども。
そんな宿命、なんか嫌だ。
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