2
2
銀髪の破壊力を学んだ、放課後。
お隣さんの銀髪少女の授業の受け方について、僕は疑問を覚えていた。
姿勢良いな、って思ったりもしたが、そうじゃなくて。
単純に変なのだ。変というか、どうして? って思うのだ。
その疑問は、一限目の開始直後からである。
なぜなら、お隣さんの銀髪少女——
朝、黒板を前かがみで見ていたことを知っている僕は、彼女は目が悪いのではないだろうか、と。思ったけれど——いやいや。
それなら普通、逆だろ。
外さないだろ。装着するだろ。
一限目でコンタクトを外した彼女は、授業の合間の休憩時間には、メガネをしていた。
めちゃくちゃ似合っていた。
行動内容が意味不明過ぎて、理解できなかったが。
目が悪いのなら、普通。授業中こそ視力を補正するべきだろう。
だが彼女は、その後の授業でも、授業中はメガネを外し、授業が終わるとメガネをしていた。
謎である。謎というか不思議だ。
だから僕は、どうしても知りたくなったので、その理由を——謎のコンタクトとメガネを外す理由を——、彼女に訊くことにした。
「なあ、晴後さん?」
放課後の教室で、他の生徒が帰宅していく中で、僕はそう言って、彼女を呼んだ。
僕の言葉に彼女は、タブレット端末に『?』と書き、首を傾げた。なぜか顔は赤い。
僕のこと好きなんじゃね? って勘違いしそうになるが、僕は質問をすることを優先する。
「どうして、授業が始まるとメガネをパージするんだ? 目が悪いなら、普通逆じゃないのか?」
僕の質問に、彼女はタブレット端末に文字を書いていく。書くの速い……。
『私、目は良いよ!』
なかなかの速筆でそう書かれたタブレット端末の画面を見た僕は、だとすれば、コンタクトをしていた意味も、メガネをしている意味もないんじゃ? と、そう思いながらも——いや。
コンタクトはカラコンだったのかもしれないし、メガネも実は伊達メガネで、休憩時間にはお洒落を欠かさない女子力の持ち主なのか、とも思えた。
『度入りだよ!』
「……………………」
伊達メガネとかなの? って一応質問した僕に対する、彼女の返事である。
だとすれば、尚更意味がわからない。
度入りなのに、なぜ外す?
そしてなぜ休憩時間には装着する?
謎過ぎる。お洒落……なのか? それが女子のお洒落感覚なのか……?
女子じゃない僕にはわからないけれど、それが女子のお洒落で、いわゆる女子ならではの可愛いだったりするのだろうか?
女子の言う可愛い、って、男子にとってはわからないことが多すぎるからな。ある意味、女子の可愛いは男子にとってミステリーだ。タピオカのどこが可愛いのかもわからないし。同じ粒々でも、イクラ丼を見て可愛いって言ってる女子を僕は見たことがない(いるかもしれないが)。
色的には、イクラの方が可愛いと思うけど。
なぜかイクラのことを考えていると、彼女はタブレット端末に文字を書き書き。それを僕に向けた。
『私、誰かの視線が苦手なの……。だから、わざとコンタクトやメガネをして、視界をぼかしているの』
「なるほど」
なるほど、である。
視線が苦手か。確かに、彼女ほどの容姿ならば、視線は集まってしまうだろう。男女問わずに、注目を集めてしまうことだろう。現に僕も朝、めっちゃ見てたしな。
だからわざと朝はコンタクトをしていたのか。休憩時間は、毎回コンタクトを入れるのは手間だから、メガネにしていた——ということか。
納得。なんかスッキリした。
「でも、それって危なくないか? 視界がぼやけているなら、登校中も危ないし、階段とかかなり危険だろう?」
『んー。でも慣れたよ。足下さえしっかり見て歩けば、転ばないし、ぼやけているって言っても、人の目が見えないくらいで、人がいることは気づくもん。字は見にくいけど……ね?』
だから朝、黒板の座席表を確認するとき、やたらと前かがみだったらしい。
「だけど、それならなんでコンタクト? メガネだけで良くないか?」
『メガネだと、下を向いて歩くとき、誰かに見られてたら、チラッと視界に入っちゃうでしょ? だから朝は、コンタクトなの』
「徹底してんなー」
『えっへん!』
自信満々みたいな感じで、タブレット端末に書かれた『えっへん!』だが、彼女の表情はやっぱり赤面してるし、僕の目を見ない。
まあ、その表情で一秒でも見つめられたら、その瞬間に死ぬか惚れるかしそうだが……。
今も僕、普通に話している風だけれど、ニヤけていないか不安になる。頬って筋肉痛とかになるんだろうか?
なるのなら、明日とか僕、めっちゃ顔痛いんじゃねえのか?
やれやれ。小顔になってしまうぜ。
「じゃあ、帰りもコンタクトするの?」
『そうしたいけれど、帰りはメガネ……。コンタクト入れるの苦手で……。眼球に直接レンズを貼り付けるのは、正直怖いんだもん』
じゃあしなきゃ良いのに感半端ねえな。
だけど、コンタクト入れる恐怖よりも、視線の方が嫌なんだろうな。見る側からすれば、可愛いから魅せられてしまうのだが、彼女からすれば、そんなつもりはないし、見られるのはストレスなのだろう。
そう思うと、今朝の僕は悪人である。
なにせすげえ見てたからな、僕。アホみたいに。
内心で呟いていると、彼女はメガネを装着した。わざわざ、タブレット端末に、『しゃきーん!』って書いてからメガネを装着して、書いた『しゃきーん!』を僕に向けて。
なんか萌えた。『しゃきーん!』って書いたタブレット端末を僕に向けながら、顔真っ赤な少女に僕は萌えた。
たぶん僕、今ニヤけていると思う。
まあ、幸い(?)メガネを装着した彼女には、僕の表情はわからないだろう。ラッキーだぜ。
『じゃあ、私そろそろ帰るね』
「うん」
『また明日……ね?』
「うん。また明日」
僕がそう言うと、彼女はタブレット端末をカバンに入れた。そのまま立ち上がり、下を向いて教室の出入り口のほうに足を進めた。
タブレット端末をしまっていた彼女の顔は、やっぱり赤かったけれど、だが、その表情は少し笑っていたので、その笑顔で僕はまたもや萌えた。
ガン——と。
下を向いて教室から出ようとしていた彼女は、普通にドアに頭をぶつけていた。
なにそれ可愛い……。
きっと、結構痛かったのだろう。それでも声を出さない彼女は、たぶん頑固だ。
何事もなかったかのように、だけれど頭をすりすりしながら、彼女は教室から出て行った。
「……………………」
いや。階段とか心配なんだけど。
普通に。
「仕方ないな」
仕方ない。そう言うことで、僕は善意を理由に、彼女を追いかけるように教室から出る。
善意——ではないな。偽善だろう。
心配なのは本当だが、だからと言って、追いかけることが善意とは言えまい。
そもそも、僕にやましい気持ちがないとも言えまい。萌えてしまった時点で言えまい。別にエロい目で見ているとかじゃあないけれど。
僕には、高嶺の花過ぎるしな。
きっと今の僕は、アイドルのファンみたいな心境なのかもしれない。
それはそれで健全と言えるのだろうか……?
わからないけれど、ともかく。
せめて学校の敷地から出るまでは、安全を確保してやろう——と。謎の使命感を持ち、僕は彼女を追いかけたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます