第2話

「オレンジジュースが欲しいのか?悪いけど、この中身はもうないから、欲しいんだったら同じの買ってや」

「オレンジジュースは要らないです!ち、血が欲しいのですよ!」


ㅤオレンジジュースが欲しいのかと思っていたが、違うらしい。彼女はムスッとした顔で俺をじっと見つめてきた。

ㅤ・・・・・・まさかとは思うが、この子は血フェチなのか?だとしたら、血を吸いたいと言っている事にも納得がいく。ただ、そうなると俺に声を掛けてきた理由が謎になるが、まあこの際どうでもいいだろう。


「その顔は、やっと分かってくれたのですね!それでは」

「まあ待て、こんな公共の場で君の性癖を公開したくなんかないだろ?」

「・・・・・・あの、何か勘違いしてません?」

「逆に何を勘違いする事があるんだよ」

「それじゃあ、貴方が何を考えてるのか、言ってくれません?」

「血フェチなんだろ、君?」


ㅤ俺は自信満々でそう言った。が、全然見当違いだったらしく、


「・・・・・・へ?」


ㅤと、素っ頓狂な声で返してきた。


「・・・・・・え?違うのか?」

「いや、私、血フェチだから血が欲しいのではなくて、吸血鬼だから血が欲しいって言ってるんですよ?」


「・・・・・・は?」


ㅤ今度は俺が素っ頓狂な声を出した。


「あれ、言ってませんでしたっけ?」

「うん、言ってないな」


ㅤ間違いなく言ってない。


「それなら、自己紹介からしないとですね。私はレリー。普通にレリーと呼んでくださって構いません。後、私は吸血鬼ですからね?血フェチじゃないですよ?」

「はいはい吸血鬼なんですね」


ㅤまだ信じてないけど。


「凄い適当ですね・・・・・・。ところで、貴方の名前は何ですか?」

「俺は新道神威。まあ気長に神威とでも呼んでくれ」

「流石にいきなり呼び捨てはハードルが高いので、さん付けにしておきますね」

「別にさん付けなんかしなくても呼び捨てでいいのに」

「いえ、貴方が許しても、私のプライドが許してくれないので」

「ふーん」


ㅤ面倒臭くなったので、適当に返答した。

ㅤ少しの沈黙が訪れた後、「そう言えば、」と言って、俺に問い掛けた。


「まだ私の事を吸血鬼って信じてないんですよね?」

「そりゃあな。吸血鬼って証明する何かを見せてくれないと、信じようにも信じれん」

「それならさっきも言いましたが、私に血を吸わせてください。もう腹ペコで腹ペコで昼しか寝れないのですよ」

「いや寝れてるじゃねぇか」


ㅤツッコミながらため息。


「まあ別に吸ってもいいぞ。ええと、吸血鬼はやっぱり首から吸うのか?」

「いえ、血が適量吸えるならどこでも構わないです。・・・・・・それに、多分首だと痛いと思いますよ?」

「・・・・・・じゃあ腕で」


ㅤ痛いのは御免だからな。

ㅤ俺は軽く袖を捲った。それに吸い寄せられるかのように俺の腕に近づいたレリーが、ふと上目遣いでこっちを見てこう言った。


「本当に今腹ペコなので加減できないかもしれないですが、許してくださいね」

「いや流石に意識が飛ぶくらい吸うな・・・・・・よ・・・・・・」


ㅤ案の定と言うか、段々と立っている感覚すらなくなり、朦朧とし始めた俺の意識は、そのままゆっくりと深い闇の底へ落ちていった。


ㅤ・・・・・・俺、生きてますかね?

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