美少女吸血鬼と同居する事になりました。

かいみん

第1話

ㅤ俺の、神道神威の、人生初の告白。

ㅤ高嶺の花なのは十も百も承知。

ㅤ数多の男子が振られた事も承知。

ㅤそれでも俺は、高嶺の花を手に入れてみせる!


「俺と付き合って下さい!」

「ごめんなさい!」




「な、なぁ神威、元気出せよ……」


ㅤ心配そうに声を掛けてくれるこいつは九条樹良くじょうきら。成績優秀、スポーツ万能で、なおかつ女子からの支持も高いこいつは、俺の唯一無二の親友だ。


「いやもう無理立ち直れない病んだ」

「どんだけよアンタ……」


ㅤそう言って頭を抱えながら「はぁ…」と、溜息をつくこいつは栗原涼香くりはらりょうか。やたらとウザイ女子で、暇があればすぐ俺に突っかかってくる。


「だ、大丈夫ですよ!どんな事も平凡な神威さんですが、きっといい出会いがありますよ!」


ㅤ励ましてるのか貶してるのか分からないこの子は風神陽菜かぜかみひな。俺達の一個下の後輩で、よく俺達と一緒にいる。とにかく天然過ぎる子だ。


「なんか今の言葉、凄い胸に突き刺さった感じした……」

「え、き、気を悪くさせてしまいました?ご、ごめんなさい!」


ㅤ陽菜のオーバーキルによって、既にゼロだった俺のライフはマイナスにまで急降下してしまった。悲しい。ただ、陽菜には悪気が一切ないもんだから、怒ろうにも怒れない。

ㅤそんな俺達を見兼ねた樹良がこう口を挟んだ。


「ま、まあ陽菜も悪気はない訳だし、許してやってやれよ、神威」

「いやまあ怒ってる訳じゃないけど……」


ㅤ溜息と同時に、そう言葉を並べた。

ㅤいや別に怒ってるわけじゃないんだよ、ほんとに。強いて言うなら最初から一人で帰らせて欲しかった。

ㅤそんなやり取りをしていると、涼香が急にこんな提案をしてきた。


「そうだ!明日は土曜日だし、皆でカラオケに行きましょうよ!勿論このメンバーで!」

「お、いいな!賛成!」

「私も賛成です!」


ㅤ二人とも賛成の模様。分かってたけど。その後涼香は、「あんたは?」と言った顔で俺に詰め寄ってきた。こういう時の涼香の顔はシンプルに怖い。本人は無意識らしいけど。

ㅤこうなると、勿論断れるはずも無く、


「分かった、行くよ」


ㅤ少し気だるそうに俺は言った。

ㅤ俺の言葉にパーッと笑みを浮かべた涼香は、「さっすが神威!分かってるわね!」と言って、皆と明日の計画を立て始めた。

ㅤなんでそんなに楽しそうにしてるのだろうか。俺からしたら、憂鬱でしかないってのに。




「それじゃ、また明日な〜」

「バイバーイ、また明日ね〜」

「さようなら〜」


ㅤ皆帰る方向が違う為、ここでお別れだ。


「あ、神威、ちゃんと明日来なさいよ?この前だって約束すっぽかしたんだから」


ㅤ釘を刺すように涼香に言われた。そんな面倒臭い話を右から左へ聞き流していた俺はふと横目で二人を見てみると、とても楽しそうに笑って会話していた。

ㅤなんだよあいつらカップルかよ。


「ちょっと、聞いてるの?」

「聞いてるって」

「聞いてるならいいけど……」


ㅤそう言って涼香は、スタスタと改札の方へ歩いていった。

ㅤ俺は頭をガリガリ掻きながら一息ついて、


「……帰るか」


ㅤと呟き、駅の出口へと歩を進めるのだった。




「……ぷはぁ!やっぱりこういう時に飲むオレンジジュースは最高だなぁ!」


ㅤあれから数分、夕日が沈み、辺り一帯完全な夜となった。結局家に帰る気分にはならなかった為、近くの公園のベンチに座って、自販機で買ったオレンジジュースを星空を眺めながら飲んでいた。

ㅤちなみに、オレンジジュースの魅力を前に樹良達に力説してみたのだが、誰一人として共感して貰えなかった。何なら「お子ちゃまかよ!」とまで言われた。

ㅤオレンジジュース、美味しいのに。


「あ、あの……」


ㅤ声を掛けられた為、視線を落としてみると、目を見開くほどに絶世の美少女が、もじもじと何か言いたそうにしながら立っていた。


「……どうした?」


ㅤなるべく平静を装って言った。内心ドキドキしっぱなしだが。

ㅤにしても中高生辺りだろうか。この時間帯なら塾とか部活で帰りが遅くなる人も居るだろうから、まだ歩いていてもおかしくはない。だが、何一つ荷物を持ってないと言うのは流石におかしい。しかも服が所々破れている。何か事情があるのだろうか。


「ええと……」


ㅤ恥ずかしそうにしながらも、何かを決意したかのようにして、彼女はこう言った。


「ち、血を吸わせて下さい!」

「……はい?」


ㅤ突拍子もない事を言われた俺は、空っぽのオレンジジュースを片手に呆然とするのだった。

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