魔女の話
魔女狩りというものをご存知かしら? そう、あの狂気と嫌忌の馬鹿騒ぎのことよ。私は村一番の治療師だったけれど、それが理由で二番目の治療師に告発されて火炙りにされたの。
あの後村はどうなったのかしら? 謙遜せずに言うなら、私はあの村で最も病について知っていたし、薬についても知っていたわ。二番目もそれなりに知識はあったようだけれど、何も出来ずに村ごと死んでしまったのではないかしら。
それにしても、ここは暑いわ。火炙りにされて地獄に堕ちたからかしら? 着ているものは罪人に着せられるぼろ布だけれど、汗で張りついてとても気持ちが悪いわ。もし着替えられるならすぐにでも着替えたいくらいね。
「あら……どなたかしら。私、悪魔に知り合いはいないのだけれど」
「生憎悪魔ではない、生前は聖職者だった」
「それは失礼いたしました」
いつの間にか近づいて来ていたのは、とても大きな男の人。地獄にいるから悪魔かと思ったら、この人も地獄に堕ちた人間みたいね。元聖職者だなんて言っているけれど、地獄にいるのだから、きっとあの日私を――した男と同じね。
でも、魔女だと言われて殺されただなんて話したら、きっとまた殺されてしまうわ。ぼろ布の端をつまんで軽く一礼して、なるべく早く彼から離れようとしたのだけれど、彼の方はそうではなかったみたい。
「新しくここに堕ちて来た……だろう? でなければ、そんな姿で無用心にこの辺りを歩いている訳がない」
「あら、あら……困ったわ。そんな姿でと言われても、どうすることも出来ませんの」
「だから、自分が来たんだ……この辺りには、少女ばかりを付け狙う変質者がいる」
「まぁ! 怖いわ!」
大袈裟に怖がって見せたけれど、彼の態度に変わりはなかった。話しかけてきたときと同じ、鉄みたいな無表情。けれど、彼の言うとおりなら、確かにこの姿では危ないかもしれないわね。
「それと、もう一人……いや、二人か? 危険な人物がいる。あれらは行動範囲が読めないから、いつ遭遇するかわからない……流石に来て早々もう一度死にたくはないだろうから、隠れ家まで案内する」
「でも、そう言っているあなたが悪い人なのかもしれないわ。ついて行ったら殺されたりしないかしら」
「ここでは正当防衛以外で相手を殺すことはしない。それに……お前も『大罪人』だろう、表面上だけでも理性的で話が出来るのは珍しいんだ」
「あら、あら……怖いわ、私、罪人なんかじゃないのに」
「不本意ながら自分も『大罪人』だ……生きていた時の意味合いとは違う」
ついて来い、だなんて、ついて来ることを疑いもせずに彼は歩き出した。仕方ない、わからないことだらけだもの。そう何度も死にたくはないし、もし、彼が私を殺したら、後悔するのは彼の方だもの。
――『黒猫の尾』。魔女裁判に掛けられて焼死した白魔術師。火炙りにされた際、体中に溜め込んでいた毒素が灰となって雨に混ざり、その毒雨が降り注いだ村はなす術もなく滅んだ。
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