死神の話
生存其れ即ち苦痛である。喜怒哀楽の感情に掻き乱され、人間関係に振り回され、誰もが死に向かって死んだような顔で歩み続ける。
絶命其れ即ち救済である。何故ならば死んだ人間は何にも惑わされることなく、安らかな眠りに沈み続けるからだ。
ならば――全ての人間に穏やかな静寂に満ちた死を与えることこそが、使命だと思った。
「そう、殖え過ぎた薔薇を剪定するように」
首を切り落とす、それだけで救いが得られる。だと言うのに誰もが其れを拒否した。辛くとも生きていることにこそ価値があるのだと、そう声高に主張する者もいた。
理解出来ない、何故敢えて苦しもうとするのか。痛苦は取り除くべき害悪であり、忌避すべき概念である。
「永遠に、安らかに、穏やかに、何にも煩わされず、眠り続ける」
そうだ、そう思っていた。だと言うのに、この場所は死と言う救いを真向から否定した。地獄と呼ばれている、此の檻は――漸く訪れた、私に与えられた救いを、嘲笑うように無に帰した。
「……そう、ならば此れは、私が未だ使命を果たし終えていないと言う事だろう」
首の肉を裂き骨を断つ、二度目の絶命の、其の間際まで――サイエと呼ばれていた男は私の顔を凝視していた。ツジ、と呼ばれていた少年は、私が此の男を殺す間に逃げてしまったらしい。
救いを、救済を、贖いを、贖罪を。此の檻に囚われた者達は、大なり小なり罪を重ねて在ると言う。死して尚眠れずに彷徨い歩いている事からも、其の罪は明白だ。
ならば、私は使命を果たさなければならない。此の地獄に存在する全ての者に、救いを――二度目の死を、穏やかな眠りへの誘いを、果たさなければならない。断頭鋏に付着した血を掃い、彼の安らかな眠りを願う。
「死して黙せよ、永遠の眠りに沈み、静寂に満ちた平穏に抱かれ、其の魂が苦痛無き大海の底に在るように……」
――■■ ■■■。巨大な刃物で首を切断する手口から『処刑人』と呼ばれた連続殺人鬼。絞首刑に処される直前、教誨師に向かって「死は永遠の救いである」と言い放ち、穏やかな笑顔のまま死んだと伝えられている。
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