第2話
それからというもの。
自転車はすこぶる調子がいい。
そして。やっぱり山道君は光っていた。光っているからすぐ見つけられるし、ついつい見てしまうから、視線を感じた山道君が恥ずかしげにこちらを向いて目が合うこともあった。そんな時は私もなんだかむず痒い感じがした。
「ねえ、佳菜子。人間が光って見えることってある?」
私は小学校から同じで一番仲の良い友達の佳菜子に聞いてみた。
「私は経験ないけど。眼科行った方がいいんじゃない? あ! それとも幽霊が見えてるとか?」
幽霊じゃないと思うんだけどな。だって山道君、皆んなに見えてるし。でなければ宇宙人?
「そんなことより、中学生になったんだから好きな人ぐらいできた? 初恋もまだなんて信じられないよ」
佳菜子に言われて私の眉が不機嫌に寄った。
「だって、よくわかんないんだもん。一人の男子が特別好きっていうの」
「あーあ。この子は本当にお子様なんだから。でも有希と恋話できたらきっと楽しいだろうなあ。早く好きな人作ってよ」
「好きな人って作るもんじゃないと思う」
私は小さくため息をついた。
佳菜子には小学生のときから好きな人がいる。でも告白はしてないみたい。
男子が特別になるってどんな感じなのかな。
教室の外から山道君が入ってくるのが見えた。光って見えるからすぐに分かる。これも特別、なんだろうか? 分からない。
***
「いっぺー」
山道君が呼ばれている。名前がいっぺいだと言うのは最近まで知らなかった。
山道君がなぜ光ってみえるのか。私はその謎を解くべく毎日観察するようになっていた。
山道君の背は私とあまり変わらないくらい。声変わりはまだしてないのか高い澄んだ声。でも煩くはない。毎日私よりも早く学校に来てる。自転車屋さんで見せた一面がなければ、活動的と言うよりかはやや大人しい男子に見える。本が好きなのかな。図書委員をしている。私も本好きだからちょっと嬉しい。小学校が同じだったっぽい人たちからいっぺーと呼ばれている。親しそうで羨ましい。
今日は数学で分からないところがあったのか、口を尖らすようにして考えている横顔が可愛かった。
掃除当番の時もふざけたりサボったりしてる男子がいる中でちゃんと掃除してる。
「お前ら掃除しなきゃ帰れないし、部活にもいけないだろ? さっさとやっちゃおう!」
「へいへい。あと一回だけ。今度はいっぺーが打者な」
「えー、俺? 仕方ないな。これ済んだら掃除しろよ」
男子を相手にしつつなので優等生っぽさや嫌味な感じはないけど、根が真面目なんだと思う。
たぶんどこにでもいる普通の男子。でも私にはそう思えなかった。パンク修理してた山道君は本当にかっこよかったし、山道の意外と細やかで気遣い屋さんなところも、人が良くて友達から可愛がられてるところも好感が持てる。今でも山道君だけが光って見えるのは変わらない。観察しているとますます輝きが強まってる気がする。そして不思議なことに毎日見ていても飽きない。新しい山道君情報を得るとなんだか顔がにやけてしまう。変なの。
山道君を観察するのと並行して、私は図書室で怪しい本を読んでいる。『未知との遭遇』だとか、『霊魂は光る』『人間の謎』『宇宙人解明』など。とにかく人間が光る現象を突き止めようとしているのだ。でも、山道君のようなケースはまだ見つけられてない。
***
「最近有希なんか変じゃない? まだ人間が光って見えてるの?」
休み時間、佳菜子に言われて私はちょっとむくれた顔になる。変て……。私はいたって普通に過ごしてるけど。
「変て何? 光って見えるのは続いてるけど」
「なんか心ここにあらずな時が多いし、やたら図書室に行くし、何より山道君にガンつけてない?」
佳菜子の最後の言葉に、私は「ええ?!」と思わず大きな声を出した。
「そんな風に見えてるの? 確かに山道君のこと観察はしてるけど……」
佳菜子は私の言葉に怪訝そうな顔をした。
「観察?
……もしかして、光って見えるのって」
「うん。山道君なの」
私の答えに佳菜子は「そう言うこと」と合点がいったようだった。そして、にんまりと笑った。
「な、何?」
私は怖くなって佳菜子を見る。
「何も。うんうん。何でもないけど、でも、そうか、有希もやっと、そうなのね。まあ、悩みに悩んで。なんか進展があったら報告してね」
佳菜子は私の肩を叩いて席に戻った。私は佳菜子の言ってる意味がさっぱり分からなかった。
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