第23話

 メリーゴーランドから降りた訳だか。


「なあ…次、なに乗る?」

「…。」

「紗衣子?おーい、紗衣子さん?」

「…あ。そ、そうね! そろそろご飯の時間ね!」


 おばあちゃん、ご飯はさっき食べたでしょ? じゃねーよ、動揺しまくりだな…。


「あああ! ち、違うのよ喉乾いたわねって言おうとしたのよ! あははは…」

「はあ…」


 まあいいや、とりあえずのってやるか。


「そこでタピオカドリンク売ってるが」

「じ、じゃあソレにしましょ!」


 こんな、映え狙い丸出しで女子高生に媚びまくりな物体、初めて飲むな。

 てか、値段めちゃ高っけーなオイ! これ一杯で牛丼より高いの?!

 飲み物と言うか、ほぼデザートかなこれは…。クレープといっしょに並んでるし。


「やっぱり写真は撮るのな」

「当たり前でしょ」


 さっきメリーゴーランド乗ってる時も、何枚か自撮りで撮ってたよな。後でスマホに送ってもらうかな。


 …まあ、さっさと飲むか。

 これ、そのまま飲めば良いんだよな? なんかストローめっちゃ太い。


「――ぶっ?!ごぶぁ!!!」

「きゃっ!なに、むせたの?」


 おお゛!!!気管にはいった!!!


「ちょっと大丈夫?」

「つ、つぶが…喉に、詰まっ…ごほごほ!!」

「ストロー太いのに一気に飲もうとするからよ。ほら、ティッシュ有るから使いなさい」

「あ、ありがとう…たすかる、ごほっ!」


 女子のバッグって、本当に何でも入ってるな。


「あー、やっと落ち着いた…」

「ビックリしたわよ、もう」


 俺だってビックリしたわ。


「これ、飲みものじゃないな。食い物だ」

「あんた…タピオカ初めてなの?」


 やめろ、その少し可哀想な人をみる目を向けるな。

 とにかく、ゆっくり飲む…じゃない、食べないとな。


「ん、落ち着いて味わってみると、なんかもっちゃもっちゃしてて、不思議な食感がクセになるな」

「でしょ?あと、ここのは甘くて美味しいわね。

 あれ?審、あんたズボンも少し濡れちゃってるじゃないの」

「ん、おお。まあこの位なら別に気にならないけど」

「しょうがないわね、ちょっとじっとしててね?」

「は?いやいや大丈夫…」


 こいつ、何で今度は俺の内ももを、ティッシュ持ってベタベタ触ってんの??

 いや、純粋に世話焼きたいだけなんだろうがさ、そこは俺のデリケートな部分が近いからな?っておいおい!


「す、ストップ!そこまででいいから!!」

「なによ、まだズボンの付け根のあたりが…あっ。

 そ、そうね! もう十分ね!」


 あぶねーな、まったく…。

 照れ隠しかな、自分のタピオカの消費作業に集中しはじめた紗衣子は、ちゅるちゅるストローで吸い上げた丸いつぶつぶを、もにゅもにゅ噛んでる。ハムスターっぽいな。

 はあ…可愛い。


「なあ、紗衣子」

「んー、ちょっほまっへよちよっと待ってよ

「お前さ、好きなやつとかいるの?」

「ぶーーーーーっ!!!」


 あ、やっべー。

 つい聞いちまった。


「ごほっごほっ!!

 な、な、な、なにを聞いてきてんのよ!?」

「悪い悪い、ついうっかり」

「うっかりって何がよ!もう…タイミング考えなさいよね、足は濡れたけど服汚れなくてよかったわ…」


 タイミングが合えば聞いても問題無かったのか。

 まあ、拭き終わるまで待つか。


「足、拭くか?」

「自分で拭くわよ!

 もう、審のスケベマキアート!本当えっちなんだから…」


新しいスイーツみたいな罵倒やめろ。

 まったく、紗衣子は俺の足触ったくせになー?


「…そんで、実際どうなんだ?」

「い…い、いるわよ…多分…」

「ほおー…」


 絞り出すように答えたな。


「あ、あんたは!

 …審は、どうなのよ。いる、の?」

「あー…なんつーか、まあ…はい」

「へえー…」


 目の前にな。


「すでに、誰かと付き合ってるとかは、無い…よな?」


 委員長とか。


「は?!いないわよ!ぜっっったいに居ない!!」


 そっか…よかった。いや分かってはいたけどさ、もしかしたらって有るからな。

 童貞特有のビビり、なめんな?


「あ、審こそ、どうなのよ。

 例えば…委員長とかと、付き合ってたり…」

「あるわけねえだろ!!」


 お前も委員長を引き合いに出すのかよ。

 フェアリーさんだけは絶対ない。

 あの人は多分、俺が付き合いきれるほど単純じゃない、無理。


「まず、ここ数年で母さん以外でまともに話した女子は、お前位だし…」

「あ、そっか…そうよね、ふふふっ」


 そうなんだよ。


「ねえ、審」

「なんだよ、紗衣子」

「さっき、あたしがフリーだって確認したとき、なんでホッとしてたの?」

「お前だって、俺が童貞だと確認したら安心してたじゃねーか」

「童貞かなんて確認はしてないわよ!」

「安心してたことは否定しないのな」

「く…卑怯よ」


 はは、なんとでも言え。

 とはいえ、これはもう…確実なんじゃ?

 と言うか、これもう俺の気持ちもバレてそうだがな?

 ちょっと調子にのり過ぎたなー、ハハハ。


「ああもう、はい! この話おしまい!」

「強引に切ったな…だが乗った!!」


 俺は空気が読める男だからな、ハハハ。


「こういう時だけ、あんたのノリが羨ましいわね…まあいいわ。

 じゃあ、次の乗り物まで移動しましょ!」

「おう、元気がいいな!

 んで、次は何に行く?」

「アレよ!!」


 アレかー、あの真ん中でひときわ目立つ、ランドマーク的な…て、観覧車じゃねえか!

 あそこで告白しなきゃいけないんだぞ? まだ早いって。


「…いや、紗衣子。ああいうのは大体、最後の締めに乗るもんじゃね?」

「そんなの決まってないでしょ。

 あたしはね、もういい加減に、観覧車に行きたいのよ」


 なんだこいつ、そんなに観覧車好きなのかよ。

 いやいや、まだ告白の覚悟が固まってないんたが。時間もまだまだあるし?

 他に告白できるポイントないでしょ? 空気読もうぜ?


「いや、やっぱりああいうのさ、夕日が沈むのを眺めながら、今日の思い出を語るのに…」

「やけに食い下がるわね。

 あんた、まさか…」


 不味い。告白のタイミングを伺ってるのに、気付かれたか?!


「…高いのが恐くて、びびってるの?」

「…はあ?」


 …今なんつった?

 ハハ…俺が、びびってる??


「おいおい紗衣子、俺がびびってるって? そんなわけ無いだろハハハ…」

「午前中にジェットコースター乗った時も、あーぎゃー内臓がかき混ぜられるー、とか情けない悲鳴あげてたものね?

 あれ、あれあれ?もしかして、アレがトラウマになって、高いの恐くなっちゃったのかしら?」

「なんだとぉ…さっきから聞いてればよぉ…俺がビビりだあ!?」


 俺が怖がり? 俺がビビってる??

 はあぁぁぁぁ!!??


「恐くねーし!!

 高いのなんかぜんっぜん恐くねーし!!

 観覧車ぁ?何周でものってやらぁ!!」

「よかった。じゃ行くわよ、ほら早くーうふふ」

「え?あっはーい」


 あれー?


 あっ。俺、のせられた??

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