第22話

「結局、午前中はメリーゴーランドとジェットコースターしか廻れなかったな」

「それで十分でしょ、まだ午後も時間あるんだし。もしかしてあんた、全部乗る気なの?」


 いやな、フリーパス勿体ないし。

 それに、中学位からはこういう場所には、あまり近寄らないようにしてたからな…久々だから正直楽しい。


「別に今日全部乗らないといけない訳じゃないし、ゆっくり楽しみましょうよ」

「えー、やだやだー全部のりたーい」

「なに子供の真似してるのよ、もう…また一緒に来ればいいでしょ」

「…まあ、それもそうか」


 また、一緒にか。そうだな。

 今食べてる、値段のわりに安っぽいランチも、また食べに来ればいいか、いや。


「次は弁当もって来るのもありだな、サンドイッチとか」

「ふふ、そうね。仕方ないから、あたしが作ってあげるわよ」

「おう、助かる」


 そうだな、別に遊園地でなくてもいいんだ。

 ただ、こうやって紗衣子といっしょにな。


 そうだった、目的を忘れるところだったな。

 これから告白しなきゃなんだし。

 というか、この遊園地で告白するなら、一ヵ所しかないよなー。騒がしくなくて、二人きりになれる場所。

 まあ観覧車しかないな、ベタだが。


 ◇


「どうしたの審、急に大人しいわね…」

「え?ああー、いや俺も少し落ち着いた方がいい歳だしな、ハハハ…」

「…あんたは、この短時間で何歳になったのよ」

「男子三日会わざれば何とかって言うだろ」

「三日もたってないわよね?」


 いやね、いざ告白って意識するとな、緊張してな?


「まあいいわ。疲れたなら休憩も兼ねて、もう一度アレに乗りましょ」

「アレって…メリーゴーランドか。また乗るのか?」

「別にいいでしょ、あれなら景色が流れるのを見ながら休めるじゃない」


 景色なー。どうせフリーパスだし、料金も変わらんからな。こういう遊び方もありだな。

 それに、このメリーゴーランドは二階建てだ。さっきは下だったし、今度は上に行くか。

 そのほうが景色も良いだろう。


「んじゃ、二階に乗るかー」

「いいわね、眺め良さそうだし。じゃあ行きましょ」


 さっきはかぼちゃの馬車みたいなのに乗ってみた。ぐるぐる回ってるだけだが…思ったよりは楽しかった。まあ俺一人だったらそうは思わなかっただろうけどなー。


「ねえ、今度は馬に乗らない?」

「おう、そうだな」


 丁度二頭並んで空いてるしな。

 白馬と茶馬がいたが、そのうちの白い方に乗ると、紗衣子は俺の後ろに乗り込んだ。


「っていやいや、まてまてまて」

「なによ」

「そっちの馬が空いてるだろうが」

「イヤ、ここがいいわ」

「子供かよ」


 横向きに女の子座りしてるな、落ちない様にしっかり捕まれよ?

 そうそう、俺の腰にしがみ付く様に…???


「ハハハ…待て待てお前」

「ほら、もう動き出すから、あんたもしっかり掴まりなさいよ」

「紗衣子さんや、さては話聞く気無いな?」


 なんで有無を言わさないの?

 ねえ、紗衣子さん??


「いや、一応言うけどさ。この体制だとお前、絶対に胸とか色々とあたると思うんだけど…」

「なによ、今日はちゃんとブラ着けてるから大丈夫よ」

「なんだ、それなら安心だな。とでも言うと思ったか!?」


 むしろ着てない日があんのか。

 あ、寝るときは外してるんだっけ。


「しっかり掴まらないと危ないんだから、しょうがないでしょ?

 それとも何かしら…委員長は良くても、あたしのは不満だって言いたいわけ?」


 えっ、ここでその話を持ち出してくるのかよ。


「いやいや、不満はないっつーかむしろご褒…ハハハ」

「じゃあ問題無いわね。それじゃ、あてるわよ」


 あてるわよ、じゃねえだろお前ぇ!

 なんか紗衣子のテンションが、斜め上に飛び出し始めてないか??


「…って、動き始めた」

「ゆ、揺れるから…あんまり動かないで」


 ああ、その揺れは今現在、俺の背中で体感してるから知ってる。

 なんだ、どういう状況だコレ…???


「おい、大丈夫か?」

「…。」

「なんか言えよ」


 なんか言え、紗衣子。


 メリーゴーランドの揺れと、背中のもにゅもにゅを身体で感じてると…何だ、何かが上書きされていく感覚が…。

 これは…そうだアレだ。遠足の日に、委員長のおっぱいによりインストールされたソフトウェアが、上書きされている!


【新しいソフトウェアがインストール完了しました】


 何て事だ。

 俺のおっぱいソフトウェアは、完全に更新された。もう旧バージョンは使えない。

 まさか、これが紗衣子の狙いだったのか…!?


「…ねえ審、あんたまたバカな事考えてない?」


 喋ったと思ったらそれか。


「めっちゃ考えてる」

「認めるのね」


 いやしょうがねーだろ。

 んで、紗衣子も平気な訳じゃないのか。大分恥ずかしがってるなこの表情は。

 最近は、こいつが恥ずかしい時の顔とか、分かる様になったし。


 いやね、俺ももう紗衣子の事は疑いなく好きだし?

 なんせ今日真剣に告白する事まで考えてんだ、それはいい。


 そんで、その上でなるべく客観的に考えてみたんだよ。

 そりゃ、今までもそうじゃないか? なんて思った事が何度かあったよ。

 まあ俺もヘタレだし、大体女の子と付き合った事もないからな、情けないけど告白するって言っても、自信が無かったんだよ。


 でもな、もう疑問ってレベルじゃないんだ。 


 紗衣子さ、これ…俺の事好きなんじゃね?

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