第21話

「しっかしまあ、ホントに早く着いたなーハハハ!」

「落ち着きなさいよ、また遠足の時みたいにバテるわよ」


 そうだな、忘れてたが俺の筋肉痛はまだ完治していない。

 まあ、ここで遊ぶには全然支障ないが。


 しかし、早く到着し過ぎたかと思ったが、既に結構な人数の客がいるな。

 おっと、入場する前に受付でチケット買わないと。

 ちょっと混んでるが、思ったほどじゃない。

 これなら、そこまで長時間並ぶ事もないか。


「…あたしもドキドキしてきた」

「だろ? もっとテンション上げていこうぜー」


 入り口から特に目を引くのは、デカイ観覧車にメリーゴーランド。あとはジェットコースターのレーンか。


「夏休み前なのに、結構混んでるなー」

「親子連れに、あたし達くらいの歳の子たちも結構いるわね」

「今の時間でこの混み具合なら、早めにきて正解だったな」

「そうね、夏のお陰ね」

「やるな、夏」


 夏、許されたな。

 よかったよかった。


「ほら!まずあそこで写真とりましょ!」

「スマホで自撮りかー、いいんじゃね?」


 女子はホント好きだよなー、そういうの。


「何他人事みたいにいってるのよ、審も一緒に撮るのよ」

「え、なんで」

「あたしだけ自撮りしてたら寂しいじゃないのよ」


 まあそうだな。

 しょうがねーなホント、付き合うかー。

 でも、なんか距離が近いんだが。


「ちょっと、フレームに入らないでしょ。もっとこっちよ」

「お、おう。悪い」


 なんか…密着してくるな。今日の紗衣子。距離感が近い気が…。


「よし、中々キレイに撮れたわね」

「お、おう。そうだな」


 なんだこの俺の笑顔、硬そう。

 紗衣子は流石になれたもの…いやちょっと照れが出てるかな?いや可愛いけどさ。


「そろそろ何か乗りに行くかー」

「そうね、写真は後から撮るわよ」

「やっぱ、まだ撮るのかー」


 面倒な。まあ普通はそんなもんか。

 ん、なんだか騒がしい…?!


 そっちを見ると、小学校低学年位の女の子が泣いてる!?


「迷子かしら…あ! ちょっと審!?」


 俺は駆けだしてた。


 ◇


 泣きじゃくっていた女の子を宥め、近くにあった迷子センターまで背負ってきた。

 メリーゴーランドの目の前か、不安がる子供が少しでも気持ちがやわらぐようにっていう配慮なのかもな。


 従業員らしき男性が、未だ泣き止まない女の子から名前を聞こうとしてるが、まともな話が出来なくて困ってるな。


 つーか、さっきから見てれば何なんだこの従業員は、使えねぇ、イライラする。

 名前わかんねぇなら後でいいだろ、取り敢えず何か放送して呼び出せよ。こんな小さい、役にたたねぇ、ちっ。

 もしくは、お前が今すぐ走って見つけて来ればいいんだ。駄目だ見てられん。

 あの後ろにあるのが放送用のマイクだろう。もうあれ使って俺が放送しよう、うんその方がいい。こんなどんくさい従業員あてに出来ない。もし邪魔するならぶん殴ってでも「あきら


 ◇


「――あ」


 俺の硬く握ったこぶしに、いつの間にか紗衣子が自分の手をかぶせていた。

 やべ、今俺、何しようとしてた…?

 緊張が解けて手の力が抜けると、紗衣子の指が俺の手を優しく開いて、そのまま滑り込んでくる。


「大丈夫よ、あたしがいるんだから、任せなさい」


 …なんだろう、紗衣子にそう言われて…あ、もう大丈夫なんだって思っちまった。

 女の子は相変わらず泣き止まないし、何も解決はしてないけど…憑き物がすとんと落ちた様に、落ち着いた。


 紗衣子は落ち着いた俺から手を離すと、女の子の前にしゃがみ込んで目線を合わせて、微笑みかけてる。

 見た事ない笑顔だ、何故か母さんの顔が思い浮かんだ。


「あのね、あたしの名前は、伊東 紗衣子って言うの。

 あなたのお名前も、教えてくれると嬉しいな」


 そこからはもう俺は見てるだけだった。

 自己紹介を上手に出来た女の子は、イスに座った紗衣子の膝の上ではしゃいでる。

 こういう時は女性が頼りになるなぁ。


 女の子の親は、すぐに迎えに来た。


「もうお母さんから離れちゃダメよ、ばいばいー! ほら、審も」

「あ、ああ…。ば、ばいばーい?」


 はぁ、良かった…。

 しかし…俺、結局は何もしてねーな。

 それに…。


「紗衣子…ありがとう」

「何よ、審は別に間違った事はしてないでしょ」

「いや、もう少しで…今日の、その…デート、台無しにする所だった」

「…ぷっ、ふふふ、あははは!」

「…いや、何で笑ってんだよ」


 笑う所、無かったろ。


「あははは…ふぅ。あのね、あんたが今日のこれを、ちゃんとデートだって認めてたから。

 審も成長してるなって…思ったのよ、ふふふ」

「べ、別に…今時の高校生なら、友達とデートくらい…普通なんじゃねえの!?」

「ねえ…あんたは、友達でいいの?」


 え、いや、どういう意味だよ…。

 いや、そういう意味だろうけど、さ…。


「んなの…よく、分かんねーし」

「…そうね、今はそれでいいわ」

「何がだよ」

「いいから! ほら早く遊園地を楽しみましょ!」

「おおう、そうだな結構時間経っちまったし」


 だから、俺の手をグイグイ引っ張るな。

 …なんか、迷子センター出てからずっとこうだな。


「なあ、なんでまだ手つなぎっぱなし?」

「あんたが迷子にならない為によ!」

「なんだとぉー!」


 俺が迷子にならないように、かー。


 …なんだ、何か前もこんな感じの事が。

 ああ、そういや遠足前にショッピングモールで買い物したときも、こんな感じだったか。

 あの時は、紗衣子が間違えてテレパシー発動しないようにって。


 ああ、そっか。そういう事か。

 あれ、建前だ。おかしいとは思ってたんだ。

 多分あの時から、紗衣子は薄々気が付いてたんだな。

 俺が、”泣いてる女の子を放っておけない”って事に。

 しかも、ちょっと病的に。


 あの日、俺は紗衣子を守ってるつもりだったけど…違った。

 俺が守られてたんだ、紗衣子に。

 迷子にならないように。


「ははは!」

「何よいきなり」


 よし、決めた。


「いや…とりあえず、ジェットコースターのろうぜ!」

「ええー、最初から激しいのはイヤよ。近いんだし、そこのメリーゴーランドにしましょ!」


 今日、紗衣子に告ろう告白しよう

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