第20話

 一晩寝て起きると、やっぱり筋肉痛になってた。

 あー、足が痛たい…。月曜日の終業式とか休んじまうかなーもう。

 少し運動して鍛えるかなーとか思ってたが、来月からでいいなー、これじゃ動けないし。あと暑い。


 とか思ってたら、また家に紗衣子が来た。

 いや訪ねてくれるのは正直嬉しい…やっぱ私服可愛いな、じゃなくて。

 インターホンに出ると、「入るわよ」と言って自分で玄関を開ける紗衣子。

 家庭教師やりに何回も俺の家に上がり込んでたお陰で、もう案内しなくても家の間取りを覚えている紗衣子。

 俺が自室からリビングに降りていくと、すでに紗衣子はくつろいでる…まあ別にいいんだけどな。

 しっかし、土曜の昼間っからどうしたんだ?


「ねえ審」

「なんだ紗衣子」

「また夢なの」

「またか」


 またなのかよ。

 この夢のお告げは多分だが、未来の紗衣子が持つ超能力だ。

 こいつ自身が今日発現してる超能力は”微風”か、ハンディ扇風機が首からぶら下がってるし。


「今度は何だ? あんま切迫した様子に見えないけど」

「ううん、日程的にはもう明日だから、あんまり余裕は無いの。ただ…あたしもね、今回はちょっと困惑してて…」

「いいから勿体ぶるなよ」


 なんだよ、マジで。


「念を押すけど…これはね、あたしが行きたいからって訳じゃないのよ?

 ゆ、夢の中で言われたのよ?」

「はぁ…まあ早く話してくれ」


 気になるなーもー、一体何なんだ?


「あのね、『明日、遊園地に行ってきなさい』って」

「遊園地か」


 …あぁ、うん。


 …へぇー。


「…え、誰が?」

「あたしと、あんたよ」

「なんで??」

「『楽しいから』って言ってたわ」


 そりゃ楽しいだろ、遊園地は。


「いや、だから理由は??」

「無いわ、今回はそれだけよ」

「…。」

「…。」


 いや、だから、その、なんで???


 まあ…俺だってな、そう言われれば行きたいけどさ。

 それもう、完全にデートだと叫びたい。

 言い逃れ出来ないほどにデートだと叫びたい。  

 正直、その話だけで色々想像して、少しドキドキしてる。

 その夢の声、本当に未来の紗衣子なんだろうな、何を考えてんだ?


 ん? いまドアの辺りで気配が…。


「ばーん。話は聞かせてもらったわよー」

「か、母さん!?」

「あ、瑠美さんお邪魔してます!」


 母さん…クラスメイトの女子が来てる時に、ばーんって言いながらドアを開けるのはやめてくれ。

 んで、紗衣子は本当に母さんを名前呼びするほど仲よくなってんのか。

 でも、不味いな…どこから聞かれた?

 いや、あの内容じゃ聞いてても、超能力とかエスパーの事まで分からんよな。大丈夫か。


「お母さんね、ずっと紗衣子ちゃんにお礼がしたかったのよー。いきさつは分からないけど、行きたい場所があるなら丁度良かったわー。

 明日、二人で遊園地にお出かけしてきなさい。お母さんがアキ君と紗衣子ちゃんのお金も出してあげるわー」

「ええ!? そ、そんな悪いです瑠美さん!」

「気にしなくていいのよー? 勉強教えるの大変だったでしょう? 本当に、本当に…」


 なぜ二回言った母さん。


「ご飯だって結構作ってくれてたわよね。お母さんこれじゃ全然お返しに足りない位だと思うのよー。

 だからね、アキ君と二人で遊園地に、遊びに行ってくれるかしらー、紗衣子ちゃん」

「る、瑠美さん…」


 俺の意思とは関係なく、どんどんはなしが進んでいくぞー?

 ハハハ、これもう流れ変えられねーな?


 そのまま紗衣子と母さんは、当日の予定を俺ぬきでサクサク決めていった。

 んん? んんん??

 いや、まあ行きたかったからいいんだけどさー、なんだかな…。


 ◇


 紗衣子が帰った後、母さんは俺を買い物に連れだした。もちろんてんしも一緒だ。

 親子で買い物に出かけるのも久々な気がするなー、特に俺が高校入ってからは初めてか。

 母さんは、司の服を何着かと、俺が明日着ていく用の服を見繕って買った。

 これって、もしかしたら…母親にデートの服を選んでもらったのか…俺は。

 …いやな、センスは抜群だし何も不満はないんだけどな。

 流石にそろそろ、自分でオシャレ出来るようにならんとなー。

 恋愛なんて出来る様になると思ってなかったからな、今までは無頓着だったが、そのツケがきた…。


「にーちゃん、今日はすげーきげんいいな!」

「ん? そうか?」


 知らんうちに、にやけてたっぽいな。

 しょうがねえだろ…楽しみなんだし。


 あー、はやく明日にならないかなー。


 ◇


 今日待ち合わせしてる駅前広場は、結構賑やかなんだよなー。

 あのは辺ナンパ多そうだし、紗衣子が心配だ。

 だから、早めに待ち合わせの場所に行っておくか…と思った訳だけど、一時間も早く着いてしまった。

 別に浮足立ってないし、楽しみ過ぎて来早くちゃったわけでもないし。

 まあ、人生初だしな…デートなんて。

 こないだのショッピングモールのとは、また違う感じだ。

 ただ、いきなり出鼻をくじかれたけど。

 なんでかって?紗衣子がすでに来てるからだよ。


「だからな、なんでこんなに早い時間に来てんだよ」

「なによ、審だって同じでしょ?」


 そうだけどな。


「あれか、また何か夢で言われたのか?」

「違…そ、そうよ!あんたが一時間も早く来るって言われたの!

 あーもー早起き大変だったわー!」

「…嘘くせー」

「はあ?審だってこんなに早く来て、楽しみで仕方なかったのかしら!?本っ当にしょうがないわねーもー!!」

「な、ベベ別にちげーし!楽しみ過ぎて早く来ちまったわけじゃねーし!」

「へえー…」

「へえー…」


 …。


「…行くか」

「…そうね」


 そうだよ、早く行けばそれだけ遊べる時間も増えるし。


「もう電車乗ってくか」

「そうね。時間早いけど、遊園地は九時半から開園してるし」


 今から電車のれば、大体開園直後くらいに到着だろ。

 お、丁度きたな。


「はあー、やっぱり冷房の効いた車内は落ち着くわねー」

「ああ、涼しいなー」


 まだ、さほど暑くないけどな、午前中だし。

 昼位になればもっと暑くなるかもな。


 電車内も空いてるから、俺と紗衣子は四人がけの座席に向かいあって座った。


 こうやって正面から向かい合うと…流石に照れるな。

 俺の格好、大丈夫か?値札とかついてないだろうな…大丈夫か。

 しかし…今日の紗衣子、確実にいつもより気合いはいってるよな…。

 あんなに短いスカート持ってたのか、着てるの初めて見る服装だ。正面からだと目のやり場が…。

 ぶっちゃけ可愛い、いや眩しい。


「あ、あんまりじっくり見ないでよ…」

「おおお!ご、ごめん!」

「えっと、ううん、別に見てもいいのよ…。そこまで大きな反応されると思わなかったから、少し恥ずかしかっただけで…」

「そ、そうか…悪い。いやな…か、可愛いなって、思って…」

「そ、そう…。審も今日は、何か服装違うわね、ちょっといつもより…か、格好いいわよ…」

「お、おう。さんきゅーな…」


 なんだこの初々しいやりとり。

 そして紗衣子、今日はまた段違いな可愛いさだな。

 まさか、新たな超能力に目覚めたか?


「…何で足ばっかり見てるのよ」

「…いや、見てもいいとおっしゃいましたので」

「あんたって、やっぱり足フェチよね…」


 無意識に、太ももばっかり見てたかー。


「いや、でもスカートが短か過ぎない?お前これから遊園地行くんだし」

「ああ、これパンツスカートなのよ。分からないでしょ?」

「あ、そうなの?」


 中はズボンみたいになってるアレかー。


「遊園地だと結構アクティブに動くでしょ、そこはあたしも考えてるわよ」

「そっか、じゃあ見えないのかー」

「…あんた、何を覗くつもりだったの?」

「ののの覗こうなんてめっそうもない!」

「もう…本当えっちなんだから」

「まあ、その…はい、すいません」


 ぐうの音も出ないな、ハハハ。


「…言って置くけど、このスカート本当に見えない構造だから無駄よ、ほら」

「え?いやほらって紗衣子さん!?」


 何をまくってんの?!…いや、まじで見えんな。中身ショートパンツみたいになってんのか。

 …でもな、それはそれで興奮するんだが!!


「…はい!もうおしまいよっ!!」

「あぁ、残ね…じゃなくて」


 お前、顔真っ赤じゃねえか。


「恥ずかしいなら無理すんなよ」

「あはは…ちょっとお気に入りの服だったから、テンション上がってたかも」

「そ、そっか。まあ、いつもより…可愛いと思うぞ?」

「…審も、ちょっとテンションおかしいわよね。普段そんなに褒めないでしょ、あたしも嬉しいけど…」


 そりゃ、俺だって可愛いければ誉めることもある。

 今日は、ちょっと…舞い上がってるけど。


「…多分、夏のせいだな」

「…そうよね、夏が悪いのよ」


 夏を加害者にするな。

 俺もか。


「本格的な夏は、これからだけどな」

「夏が悪化したら、この先どうなっちゃうのかしら…」

「心配だな」

「心配よね」


 なんだこの独特なテンション。

 いやー、今日これから大丈夫かな?ハハハ。

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